 |
FS大地の絆・無謀編
キャラクター紹介
クシナー・サルディアナ……亡国の王女。素手での格闘術と回復術に長けている。
短気でわがまま。口よりも先に手が出るタイプ。
シェイクリフ・ルラフノール……ルラフノールの王子。クシナーとは婚約者同士。
剣術の使い手。気が弱く、消極的であるが、土
壇場での勇気は人一倍ある。
タイトル 作・ゴン犬(あだ名)
「私にケンカを売ってるの!?」
――ルラフノール王国王城、ある一室で――
彼女は、笑顔だった。
「ねえ、シェイ。この劇を見に行かない?」
そして、彼女の言葉は唐突だった。
「え?」
言われてシェイは、彼女、クシナーが持っていた、劇のビラを目にする。
印刷されたばかりの、真新しいビラ。
そのビラには、こう書かれていた。
「男は決して振り返らない。自分に与えられた使命を全うするために、ひたすら
進む。自らの感情を捨て、友を裏切ってまで進む。ただ一つの目的、目指すもの
をこの手に掴むため……その道のりは、あまりにも長く険しい。男の行く先には、
幾多の試練、困難、誘惑が待ちかまえている。しかし男は進む。それが彼の存在
意義だから………………感動の巨編『ニョッヘー君のおつかい』
・「白銀の戦車」の主演男優「ピエール」と「魔術師の赤」の脚本家「モハメド」
が手を組んだ今年1番の話題作!
・全ファーランドで100万人が泣いた!
・全ファーランドで興行収益堂々の1位!
『ニョッヘー君のおつかい』○月×日・パルミナスシティ クレイドホールにて
公開開始」
「えーと……」
今、自分に渦巻いている感情を言葉に表そうと努力したシェイであったが、結
局、彼の口から出たのは、
「……やめた方がいいと思うよ」
無難な、しかし気持ちをストレートに表した言葉だった。
その直後……
――バキッ――
クシナーは笑顔を崩さず、シェイを「グー」で殴る。
あえて先ほどの笑顔との違いを述べるなら、こめかみに青筋が浮かんでいる事
ぐらいか。
「せっかく、私が見たい劇の『ついで』にデートにさそっているっていうのに、
断るっていうの?」
あいかわらず笑顔でクシナー。
「デートがついでなの?」
鉄拳に吹き飛ばされ、壁に激突したシェイは、よろよろと起きあがりながら訴
える。
「ついででもいいじゃない。こんな可愛い娘とデートできるんだから」
「……確かに可愛いのは認めるよ……けど、口よりも先に手が出る凶暴な……」
言ってシェイは自分の失言に気付く。
それとほぼ間を置かずに……
――ピシッ――
何かが音を立てた。
クシナーが硬直する音、血管が切れる音かもしれなかったが、そんな事はどう
でもいい。
「あ、いや、その、違うんだ、クシナー。」
「何が違うの、シェイ?」
クシナーの表情がだんだんと険しいモノに変わっていく。
「確かにクシナーは凶暴で、がさつで、単純、短絡的だし、それに加えて、大食
いで……」
あわてているシェイは、自分が何を言っているか良く理解していない。
もし理解していたなら、少なくとも自分の迂闊さを呪う事くらいはできただろ
う……
何故なら……
――ずだんっ――
クシナーが、一足飛びでシェイに襲いかかったからだ。
肘打ち、裏拳、正拳突きのコンビネーションを決めた後、シェイを空中高く蹴
り上げる。
その直後、クシナーは空中に飛び上がり、シェイの首に膝ゲリを決めたまま、
地面に叩きつけた。
「#%$!=>」
もんどりうって、言葉にならない悲鳴を発するシェイ。
それもそのはず、自分の首を、地面とクシナーの膝によって、サンドイッチに
されたのだから。
「まったく、誰が凶暴なのよ!? ちょっとした『愛情表現』じゃないの」
「\+〇〆……」
「それは、たまには自分でも、『ちょっとやりすぎかな?』って思う時もあるわ
よ……」
「〜¥…………」
「でもほら、私って、考えるより先に行動するタイプじゃない?」
「………………」
「だから、ね」
「………………」
「……ちょっと、聞いてるの、シェイ?」
そう言って、シェイの方を見やるクシナー。
だが、シェイは聞いてはいなかった。
ついでに言えば、いつの間にか悲鳴をあげるのも止めていた。
その代わり、という訳ではないだろうが、小さくけいれんしていた。かと思う
と、ぴくりとも動かなくなってしまう。
ちなみに、首は絶対向いてはいけない(シャレにならない)方向に向いていた。
「えーと……」
………………………………………………………………………………………………
「時々思うけど、よく僕って死なないよね」
それからシェイが意識を取り戻したのは、きっかり1分後だった。
「私もそう思うわ。あの技を喰らって生きていたのは、あなたを含めたった2人
だから」
「あの技、ねえ」
何かが腑に落ちないまま、シェイは先ほど自分が喰らった膝ゲリを思い出す。
「ヘルズ・ギロチン。かの有名な『デビル・ジェネラル』直伝の必殺技よ」
「誰だよそれ」
先ほど痛めつけられた首を、コキコキと鳴らしながら突っ込むシェイ。
「あなた、『デビル・ジェネラル』を知らないの? 6人のデビル・ナイトを従
え、マッスルマンと死闘を繰り広げた……」
クシナーは延々と『デビル・ジェネラル』について語っていたが、さして興味も
無いシェイは、適当に聞き流していた。
「……でね、『デビル・ジェネラル』は硬度0から10まで……」
クシナーはまだ語っている。
「うんうん」
話を全く聞いておらず、ただ相づちだけを打つシェイ。
「……6人のデビル・ナイトは、それぞれ、ワニ、宇宙、血の池、灼熱、竜巻、
砂、の地獄を……」
「へー、そうなんだ」
心ここにあらず、といった感じのシェイ。彼はすでに別のことを考えていた。
(パルミナスシティか。劇はともかくとして、前々からクシナーと一緒に行きた
いって思ってたんだよな)
「……チャック全開なのよ」
「ふうん……って、ええっ!?」
何気に聞き流すには、言葉にインパクトがありすぎた。
(チャック全開? 何が? いや、それ以前に、『デビル・ジェネラル』の話を
してたんじゃ?……)
「これであなたも、『デビル・ジェネラル』の偉大さがよく分かったでしょう?」
(クシナー、『チャック全開』って何?)
シェイはその疑問を、素直に口に出せなかった。言ったが最後、
『私の話を聞いていなかったの?』
と、先ほど以上に強烈な『愛情表現』を受ける事が、目に見えて分かっていた
からだ。
(ああ、聞きたい。『チャック全開』について。だけども、半殺しにされるのは
イヤだ……)
そんなシェイの葛藤をよそに、クシナーは話をきりだした。
「さあシェイ。話が済んだ所で、早速劇が開かれているパルミナス・シティへ行
くわよ」
「え!? 今から?」
「そうよ」
さも当然、といった感じでクシナーがうなずく。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんないきなり……」
「いい、40秒で支度してね」
クシナーは言う事だけ言うと、自分も支度をする為、部屋を出る。
「チャック全開……」
シェイはぶつぶつとつぶやきながらも、クシナーの後に続いた。
パルミナス・シティ……ルラフノール王国から、馬車で約半日。この都市を一
言で表すなら、「街ごとデートスポット」である。東西に伸びる街の大通りは、
洒落たレストラン、カジノ、スポーツクラブ、劇場、図書館、美術館、占いの館
など、様々なニーズに合わせた施設が存在している。
加えて、街の中央に位置する公園は、数十種類の木が植えられており、季節ご
とに異なった彩りを見せ、若者達の憩いの場となっていた。
「なんだったのよ、あの劇は!?」
2人は、大通りを歩いていた。
手には、さきほど買ったフルーツの袋が握られている。
「私が見たかったのは、血が飛び散ったり、骨が砕けるシーンなのよ!」
クシナーは怒りを隠そうともせず、シェイに向かって大声で怒鳴り立てている。
もっとも、彼女の怒りは単なる八つ当たりでしかなかったが……
「まあ、こんな事になるんじゃないか、っては思っていたけどね」
理不尽な怒りをぶつけられながら、これもいつもの事だ、と嘆息するシェイ。
「第一、『ニョッヘー君のお使い』というタイトルで、どうしてそんなシーンを
期待できるんだよ?」
「何か言った?」
クシナーは、笑みを浮かべると、手に持っていたフルーツ――リンゴを握りつぶ
した。
「ううん、気のせいじゃない?」
クシナーの『愛情表現』の片鱗に、しれっと答えるシェイ。彼にも、学習能力は
あるようだ。
「あーもう、イライラするわねえ。思いっきり暴れたい気分だわ!」
「ねえ彼女、お茶しない?」
「……………え?」
クシナーは、それが自分に向けられたナンパのセリフだと気付くまで、たっぷ
り5秒ほど要した。
「未だにいるんだ。こんな使い古され、センスのかけらすらないセリフで、ナン
パをする人が……」
シェイは妙に関心している。
「こんなヤツなんかほっといてさ、俺といい事しようぜ」
『こんなヤツ』とは自分のことなのだろうなと考えながら、ナンパ男を見やる
シェイ。
チャラチャラした髪にチャラチャラした服装、軽薄そうな顔、まあ、どこにで
もいそうなナンパ男である……
「……………」
「ねえってば?」
無言でたたずむクシナーを、なおもしつこく誘いかけるナンパ男。男の手は、
クシナーの肩に回そうとしている。
(そろそろかな?)
シェイがそう思うと同時、
「うるさいわね、なれなれしいのよ、アンタ!」
クシナーはナンパ男に頭突きを叩き込む。
「うぐっ」
頭を抱えて、しゃがみ込むナンパ男。
そこへクシナーが、トドメとばかりに、かかと落としを叩き込む。
悲鳴すら上げずに、ナンパ男はその場に倒れ込んだ。
(そう。結局こうなるんだよな)
本当はナンパ、あるいはクシナーの暴力(シェイに対してだけ『愛情表現』と
いう言葉を使う)……を止めようかと悩んでいたシェイだが、そうなると被害の
矛先が自分に向かう、という事を良く知っていたので、傍観を決め込んでいたの
であった。
「ハアハア」
あの程度で疲れるワケでも無いだろうが、肩で息をしているクシナー。
「……気は済んだかい? クシナー」
「……まだよ。この程度じゃ、全然暴れ足りないわ」
「え?」
どうやら、クシナーは中途半端に暴れた事で、もっと暴れたくなってしまった
らしい。
「私の、私の敵は何処〜!?」
ヤクをキメた様な目をしたクシナーは、新たな犠牲者を求めて歩き出す。
シェイも、あわてて『それ』を追いかけた。
「なー、ねーちゃん、金貸してくれよ〜」
「寝言は寝て言いなさい!」
――バキッ――
「アナタハ、カミヲ……」
「やかましいっ!」
――ドカッ――
「あのー、すいません、道を……」
「黙れって言ってるでしょ!」
――グシャッ――
沈黙。
ややあってシェイが、
「クシナー、今のは……」
「うっ、誰にも間違いはあるものよ」
やってはいけない事をやってしまったクシナーは、ヒートアップした怒りが急
激に冷めていた。
「……間違いだらけだよ……いや、『何が』とは言わないけどさ」
……ちなみに、2人がこの場を走って逃げながら、会話をしていたのは言うま
でもない。
後から、
『おい、人が倒れているぞ』
『何か猛獣に襲われた跡みたいだ』
などと聞こえてきたが、そんな事はどうでもいい。
今、自分たちに必要な事は、この場を逃げ去る事だ。
………………………………………………………………………………………………
数分ほど走っていただろうか。2人は、人気の無い裏路地で、ようやく足を止
めた。
「ハアハア、まったく、酷い目に遭ったわね」
酷い目に遭ったのは、クシナー達に道を聞いた人だったのだが……
「フーフー、けど、考えてみれば、僕まで逃げる必要は無かったんだよな……」
「何言ってるのよ、シェイ!? 私たちは、一蓮托生でしょ!」
呼吸を整えたクシナーは、さも当然の事の様にシェイに諭す。
「それに、悪いのは私じゃなく、あのナンパ男……いえ、さらに遡って、私を不
快にさせたあの演劇が悪い……そうよ、本当に悪いのは、『ニョッヘー君のお使
い』が放つ引力に、魂を引かれた人間達なのよ!」
「……それって結局、クシナーの事じゃないの? 中途半端に回りくどい言い方
してるけどさ……」
――ピクッ――
クシナーの体が一瞬震える。
――キュピーン――
次の瞬間、クシナーの目に、怪しい光が宿った。
「うっ、ク、クシナー……あっ、そうだ! ねえ、何か飲みたくない? 冷たい
ジュースでも」
その様子を見たシェイは、『ヤバい』と本能で感じ、慌てて話を振る。
「……シェイのおごり?」
走ってのどが乾いていたクシナーは、いとも容易にシェイの策略にハマった。
「もっちろん!」
極上の作り笑いを浮かべたシェイは、力強く頷く。
「じゃあちょっと待っててね。すぐに買ってくるから」
シェイはそう言うが早いか、路地裏を抜け出し、近くの露店へと駆けだした。
シェイを待っている間、クシナーはふと考える。
(……それにしても、やっぱりさっきの劇は最悪よ。脚本も悪いし、役者も下手
くそ……そうよ、あの役者達は、演劇の何たるかが分かってないのよ! 私だっ
たら、もっと上手く演じて、観客のハートを鷲掴みにするのに……)
そんなクシナーに、たまたま目についたもの……
それは誰も見向きもしない路地裏に、ぽつんと貼られていたポスターだった。
「役者大募集! あなたも演劇をやってみませんか? 今なら主演男優、女優を
やれます。『目指せ、明日の一番星は君だ!』
連絡は……」
「……………」
クシナーは、何かに取り憑かれた様に、そのポスターをじっと見る。
そこへ、ジュースを買い終えたシェイが戻ってきた。
「クシナー、アップルジュースでよかった?」
「……ねえシェイ。私といい所に行って、いい事しない?」
「はあ?」
そう、彼女の言葉は唐突だった。
「ここね」
2人は、とある古ぼけた建物の前に立っていた。
「クシナー、確認するけど、本気?」
「もちろん!」
クシナーの返事に、シェイは半ばあきらめた感じでため息をつく。
彼女が何にでも興味を示したがるのは、今に始まった事ではない。
クシナーが、建物のドアをノックして中に入る。
シェイも、その後に続いた。
「カーカカカ。良く来たな、クズ共!」
2人を出迎えた男が、開口一番言ったセリフだった。
「……………」
クシナーは無言で男に回し蹴りを入れる。
さらに、もんどりうって倒れた男に、追い打ちのヤクザキックを入れた。
……いつもなら、シェイは止めるか見てるかなのだが、今回に限って言えば違っ
た。
「何でクズ『共』なんだよ、クシナーはともかく僕まで!」
などとのたうち回りながら、クシナーと一緒にヤクザキックをキメている。
「……ちょっと、シェイ?」
さらりと失礼すぎる事を言われたクシナーは、シェイに向かって何か言おうとし
たが……
「このっこのっ」
――げしげし――
シェイは全く聞いていなかった。
「怖いんだね……死ぬのが……だったら、そんな事を言わなければいいんだよ!
僕を、バカにしなければいいんだよ」
それどころか、何処か虚ろな瞳で、ブツブツと呟いている。
攻撃の手、いや、足を全く止めずに。
――げしげし――
「あの、ちょっと、シェイ?」
「おかしいな。涙が流れている……ひとつも悲しくなんかないのに……」
シェイは、自分の涙がこぼれ落ちるのを見て、おかしそうに笑いを上げた……
(駄目ねこれは。『マジメな奴ほど、キレたら何をするか分からない』、って言
うけど……
今のシェイに何か言ったら、
『駄目なんだよ、それ以上近づかないで』
とか、
『近づかないで……って言っても駄目なんだね……じゃあ、僕は君を倒すこと
になるよ』
とか言って、私にまで攻撃を仕掛けて来そうだし……)
そう考えたクシナーは、シェイの気が済むまで傍観を決め込んだ。
(それにしても、いつもと立場が逆ねえ……いつもは、私が暴れる方なのに……)
クシナーにも、一応自覚症状はある様だった。
その間、男はシェイのヤクザキックにより、血ダルマと化していた。
それから数分後、気が済んだのか、蹴り疲れたのかして、攻撃を止めたシェイ。
ようやく解放された男が、息も絶え絶えに台詞を吐く。
「……お前ら、何しに来たんだ?」
そこでクシナーは、ようやく自分の目的を思い出したのだった。
「ほう、で、貴様等は演劇をやりたい、と」
男は血祭りに上げられたというのに、尊大な態度を少しも崩すことはなかった。
生来の性格なのだろう。
――ヂャン・オータム・マウンテン――
それが、男の名前だった。
歳の頃はまだ若い。おそらく、20代になるかならないか、といった所だろう。
短く刈り上げた頭・目つきは鋭い……というより、悪い。気の弱い子供なら、
彼を見ただけで、泣いて逃げ出すかも知れない。
小柄な体。だが、鍛えているのか、筋肉はついている。
これで、職業を『演劇の脚本家』と言っても、誰も信じないだろう。
「……まあいいだろう。丁度、役者不足で困っていた所だ」
全然困った素振りを見せずに、ふんぞり返りながら話すヂャン。
「それじゃ、早速始めましょ。まずは衣装合わせ? それとも台詞の稽古?」
やる気十分のクシナーは、瞳を輝かせている。
「まあ待て。物事には順序ってものがある。物事を成すには、その物事を良く知
らなければならない……分かるな?」
正論を吐くヂャン。
「確かに、それは言えてるね」
正気に戻ったシェイが頷く。
「と、いうワケで、まずは心構えからだ」
「心構え?」
「そうだ。お前等にとって、演劇とは何だ!」
ヂャンの言葉に、お互い顔を見合わせ、考えるクシナーとシェイ。
「……やっぱり、『愛情』かなあ?」
しばし熟考の後、シェイはそう答えた。
「演じる側の人間が、心を込めて脚本を書き、演技をして、観客に楽しんでもら
う……その楽しんだ観客の満足感が、演じる側の人間の満足感にもなるんじゃな
いかな?」
いかにもシェイらしい答えである。
「ちょっと、演劇って言えば、やっぱり『コテコテ』でしょ?」
ワケの分からない事を言って、口を挟むクシナー。深い考えはなく、何か言おう
と考えた結果がこれらしい。
「ハン!『愛情』?『コテコテ』? 何甘っちょろい事言ってやがんだ。いいか、
演劇は勝負だ!」
ヂャンは、チッ、と舌打ちをしながら続ける。
「演じる人間と客の真剣勝負! 気を抜いた側が地獄を見る! それが演劇だ!」
「……………」
言葉が無い2人。
「そして、勝利した瞬間の恍惚……今でも忘れられねえぜ! 劇の最中に、麻薬
を焚いた時はよ。バカな客共は、麻薬に侵され、『もっと劇を見せてくれ〜』な
んて口々に言いやがった。奴等、劇が終わった後も、しばらく足腰が立たなかっ
たんだからな、カーカカカカカ」
……表現する必要もないが、この時のヂャンは完全にイッていた。
「ねえ、クシナー、この人、いかにもアブナくて胡散臭いよ……絶対まともな演
劇なんて、できっこないよ」
ヂャンに聞こえないよう、小声で囁くシェイ。
「だーい丈夫よ、シェイ。もしロクでもないモノだったら、この男を、『スーパー
ウルトラグレートデリシャスワンダフルボンバー』で半殺しにして、額に『肉』っ
て書いたあげく、素っ裸にし、すまきにして川に放り込んでやるから」
あまりにも喜々として話すクシナーに、
(むしろ、そういう展開になる事を期待しているの?)
とシェイは邪推してしまう。
……ちなみに、どうでもいい事ではあるが、『スーパーウルトラグレートデリシャ
スワンダフルボンバー』とは、一秒間に、50発の拳を叩き込むワザである……
そんな2人の会話をよそに、
「よし、心構えを踏まえたうえで、早速始めるぞ、まずは衣装合わせだ」
と、狂ったままのヂャンから指示が飛んだ。
――白雪姫――
誰もが知っている有名な童話である……この劇をやる、と聞いたとき、クシナー
とシェイには反対の理由がなかった。脚本家の人間性に疑問が残ってはいたが……
「ねえ、シェイ。どう、似合ってるでしょ?」
綺麗なドレスを身にまとったクシナーが、更衣室から出てきた。声が嬉しさで
弾んでいるのがよく分かる。
クシナーも『一応』は王女なのだから、ドレスを着る機会などいくらでもある
のだろうが、『クシナー・サルディアナ』ではなく、『白雪姫』としてドレスを
着るのは、また別の趣なのであろう。
だが、着飾った自分を見てくれるべき相手……シェイはこの場に居なかった。
「あれ、シェイは?」
あたりをきょろきょろ見回し、それでも目的の人物を見つけられなかったクシ
ナーは、ヂャンに訪ねる。
ヂャンは、顎で、先ほどシェイが入っていった更衣室の扉を示した。
「シェイ、まだ着替えてるの?」
「いや、着替え終わったんだけど……」
歯切れの悪い返事を返すシェイ。
「けど、何よ? 着替えたんならさっさと出てきなさいよ!」
「……だから……その……」
「あー、もう、イライラするわね」
ずかずかと更衣室の扉の前まで歩き、そのまま扉を蹴破るクシナー。
蹴り飛ばされた扉の向こうに立っていたシェイは、間違いなく『王子様』の格
好をしていた。
ぶかぶかのカボチャパンツに、ピチピチの白いタイツ、ラメ入りの上着、頭の
上には派手な王冠……
……間違いなく『王子様』の格好だった。……絵本の中の世界に限って言えば
の話だが。
現実にこんな格好をした王子がいたら、その国の未来はそう長くはないだろう。
「……………」
その格好を見たクシナーは、何かを必死にこらえていた。
が、やがて、それも限界となる。
「プッ……ククククク……ハハハハハハハ」
涙を流し、腹を抱えて笑い転がるクシナー。
ドレスが汚れるのもお構いなしに、床の上を転げ回っている。
対照的に、憮然とした表情のシェイ。
「……だからイヤだったんだよ……とにかく、こんな恥ずかしい格好をしたまま
劇をやる、って言うなら、僕は降りるからね」
男らしくキッパリと言い放つシェイ。が、悲しいかな。『王子様スタイル』で
は、説得力が全くない。
「ヒーヒー……私も、相手役が『これ』じゃ、笑っちゃって劇にならないわ……
あー、苦しい」
クシナーも、シェイとは別の理由で、白雪姫に反対した。
「チッ、わがままな奴らだ……まあいい。なら、代わりにとっておきの劇を演ら
せてやる……これは、さる有名な童話をベースにした劇だ」
2人がかりの説得? に、仕方なしにヂャンが折れた。
「今度はまともな格好なんだろうね?」
当然と言えば当然の事だが、疑り深くなるシェイ。
「この劇は、本来なら主人公は王様だが、俺様はそれを王女にアレンジした」
しかし、ヂャンは、シェイの疑問に、あさっての方向を向いたままで、答えよ
うとはしない。
「ふーん、面白そうね。アレンジ……って所が気に入ったわ。白雪姫同様、私が
主役みたいだし」
クシナーは、気楽な声で答える。
「傍若無人、単純、凶暴な王女様が、頭の悪い国民共々、洋服の仕立屋に騙され
るという、コミカルな劇」
説明するヂャンの鼻息が荒くなる。
「で、タイトルは?」
ヂャンの話を聞き、次第に機嫌が悪くなるクシナー。
『私にそんな物を演らせる気なの!』
と、目でプレッシャーをかけている。
「聞くまでもないと思うけど……」
シェイには、この時点で想像がついていた……全てにおいて……
「耳の穴をかっぽじって聞け!その名も、『裸の王女様』だー!」
「……………………」
まるで、時間が止まったかのようだった。
静寂〜沈黙〜
その沈黙を最初に破ったのは、ヂャンだった。
「さあ、受け取れ。『バカには見えないドレス』だ」
そう言って差し出したヂャンの両手には、当然のごとく何もなかった……
「……………………」
静寂〜沈黙〜
この沈黙を破ったのは、クシナーの怒鳴り声だった……
「ふざけるんじゃないわよ!」
その後、ヂャンが『スーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルボンバー』
で半殺しにされ、額に『肉』と書かれたあげく、素っ裸のまま、すまきにされ、川
に流されたのは、言うまでもなかった。
完
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後書き……みたいなもの
シェイ(以下シ)「……………」
クシナー(以下ク)「……………狂ってる」
シ「うん、狂ってるね」
ク「これの何処が、ファーランドストーリーなのよ!」
シ「僕たちが出ている所じゃないの?」
ク「……その私達も、性格違ってない?」
シ「そうだね、特にクシナーは、凶暴度120%UPだし」
ク「そう言うシェイも、何かが違うわよ、ゲーム本編と」
シ「仕方ないよ。作者「ゴン犬(あだ名)」のゲームに対する記憶が曖昧だし、
『神々の遺産』は何回もやっているのに、『大地の絆』は通して1回しかプレイ
していないらしいし」
ク「……普通、SS書こうとする時点で、ゲームをやり直さないのかしら?」
シ「面倒臭かったらしいよ、PC98を引っ張り出す事が」
ク「で、そのツケが私たちの性格に回って来たワケね」
シ「ゴン犬(あだ名)によると、クシナーは、『シリーズ初の女性主人公! 凶
暴で……以下略』
って広告にあったから、そこから記憶を取り出して(捏造して)今回のSSを
書いたらしいよ」
ク「何よそれ!」
シ「けど『実際ゲームをやってみれば、クシナーは最初こそ目立っていたけど、
中盤以降シェイに見せ場を取られ、戦闘でも回復役ばかりで影が薄かったな。対
象的にシェイは最初の弱さが一転、強さの裏返しである事に気付き、戦闘でも…
…(以下略)』って言ってたね」
ク「ちょっと、今のはシェイが作ったでしょ!? ゴン犬(あだ名)の言葉では
なく!」
シ(ギクッ)「あ、そうそう。ちなみにプロットだと、最初は『神々の遺産、エ
リシア・メイシア』、『ファーランドサーガ、ファム・カリン』、『キャッスル
ファンタジア、メル』のいずれかを書く予定だったらしいよ」
ク(上手くごまかしたわね)「ふーん」
シ「で、第2案が、僕たちがメインの、純粋恋愛冒険小説で書き進めていたらし
いけど……」
ク「その『純粋恋愛冒険小説』の何処をどうトチ狂ったら、こういう風になるの
よ!」
シ「作者は、『気付いたらこうなってた』って言ってたけど……」
ク「SSを書いている最中、ドラ○ンマガジンの『魔術師オー○ェン』を何気に
見ていたそうじゃない? ゴン犬(あだ名)は」
シ「結局、その『某黒魔術師貧困編』が、このSSのベースになっちゃんたよね。
タイトルで、分かる人は分かったと思うけど」
ク「しかも、色々な小ネタをパクッてるじゃない……えーと、『ジョ○ョの奇妙
な冒険』でしょ、『キン○マン』でしょ、『ラ○ュタ』でしょ、『ガン○ムW』
に、『Zガン○ム』、『機動戦艦ナ○シコ』、『鉄鍋のジ○ン』と、『すごいよ、
マ○ルさん』、『燃えるお○さん』……よくもまあここまでパクッたわね」
シ「一応、ゴン犬(あだ名)としては、元ネタを知らなくても違和感なく楽しめ
るよう、 考えて書いたらしいよ。まあ、その結果がどう出たかは、読んだ人次
第だろうけどね」
ク「後、『ファーランド』の世界観で、『白雪姫』や『裸の王様』ってのもどう
かと思うけど……今考えると、このSS、最初から世界観なんて無視してトバし
てたわね」
シ「そんな作者に対する苦情、文句、おまけとして感想は、
goninu@dg.mbn.or.jp
『ゴン犬(あだ名)』までお願いします。(あだ名)は、
別に付けなくても構いません」
ク「最期の最期まで、ネタをパクッてるわね。シャー○ンキング……」
|