温泉へ行こう!〜天使の涙編〜 「命を司る女神アフロスよ、その雷を以て我が前の者に裁きを与えよ。ライトニング!!」 ファナの手にしている指輪から雷球が飛び出す。 その雷球はファナの前のスライムに吸い込まれていき、スライムを貫いた。 「やっと終わったわね。何、このスライムの量は?」 ルシーダはレイピアを納めて言う。 その顔は疲労に満ちており、敵の物量に対する怒りも混じっている。 「確かに今日はいつもより多いね。本当にどうしたんだろう?」 アークも剣をしまいながら言う。 普段と違う敵の量に少し疑問を感じたようだ。 「そんなことどうでもいいわよぉ〜〜。うぇ〜〜〜〜。もう、服も身体もべとべと〜〜〜」 アリーナがその翼をはためかせて、空からおりてくる。 彼女の言葉通り、前線で戦っていた人は服も肌もスライムの残骸でべとべとに汚れていた。 「お風呂はいりた〜〜〜〜い」 「何言ってるんだよアリーナ。俺達は早く魔石を集めなければならないんだろ」 タックが言う。 「でも、私もお風呂に入りたいです」 「え、あ、そ、そうですよね。お風呂入りたいですよね」 ファナの言葉にすぐに意見を翻してしまう。 タックの変わり身に一同は呆れていた。 「でも、この辺りに村なんてあったっけ?」 「たしか、この辺りに知る人ぞ知る秘湯があったはずだけど?」 もっともな疑問にルシーダが答える。 もう何十年も生きているので知識は豊富だ。 「お風呂入りたーい!!」 「アリーナさん、ちょっと落ち着くでちゅ」 アリーナは自分が保護した少女になだめられている。 「これじゃ、どっちが子供か分からないわね」 その様子を見てルシーダは呆れていった。 「で、とりあえずどうする?お風呂に行くか、魔石を集めるか?」 「お風呂、お風呂、お風呂〜〜〜〜〜!!」 アリーナが高らかに声を上げる。 女3人よれば姦しいと言うがアリーナは1人でも姦しかった。 「やれやれ、いつものことながらやかましいですね」 「うむ、そうだのう・・・」 「まったく・・・アリーナは変わらないな・・・」 その様子を外で見ていたナルシス、ドカティ、ディーノが輪の外で淡々と言う。 「わかった、わかった。じゃあ、温泉に行こう。ルシーダ、案内を頼む」 アークはやれやれといった顔でルシーダに助けを求めた。 ルシーダもなれたものですぐに反応する。 「ええ、わかったわ。ついてきて」 そう言ってルシーダは歩き出した。 「ついたわ。ここよ」 ルシーダは森をしばらく進んだあと、振り向いていった。 「ええ〜っ、ここがそうなのぉ!?」 アリーナは不満げな声を上げた。 それもその筈でルシーダが連れてきたのは脱衣所も何もなく、温泉が自然に湧き出て溜まっているところだった。 「まあ、これなら知る人ぞ知るってのも頷けるわね」 冷静な顔でエレノアは頷いた。 「こんな所で入りたくな〜い」 「わがまま言わない!ほら、入るんでしょ」 「ううぅ〜〜、わかったわよぉ〜〜。みんなはいろ〜」 「そ、それでは・・・」 ルシーダに言われて、アリーナは渋々と承諾した。 女性陣を引き連れて茂みへと入っていく。 「覗くんじゃないわよ」 最後にそう残して・・・ 「よし、いったか」 タックは音が遠くなるのを聞いていたが、やがて確認したのかニヤリと笑った。 「何考えてるんだタック?」 ディーノは訝しげな顔をして聞いた。 「おう、ディーノ。お前も来いよ」 「どこへだよ」 「決まってんだろ、覗きだよ。の・ぞ・き」 タックはニヤリとしていった。 「何言ってんだよ。覗くなって言われたばかりじゃないか!?」 ディーノは大慌てで反論する。 「バカだなぁ、そんなのいちいち真に受けてちゃやってけねぇぜ。それとも、エレノア近衛師団長殿の裸は見たくないのか?」 「そ、そんなこと無いけど・・・」 タックは我が意得たりとほくそ笑んだ。 「じゃあ、決定だ。他に誰か・・・」 「やめなさい、その様な行為。神はお許しになりません」 とナルシス。 「とめはせんが、わしは辞めておく」 かみさん一筋なのでなと付け加えるドカティ。 「アーク、お前はどうだい?」 今度は剣の手入れをしているアークに白羽の矢がたった。 「ん、僕?う〜ん、どうしようかなぁ・・・って、そんなに恨みがましい目で見ないでくれよディーノ。わかったよ、僕もいけばいいんだろ」 アークは渋々といった感じで腰を上げた。 「よし、メンバーは俺とディーノとアークで決定だな。ナルシスにドカティ、教えるなよ」 「・・・・」 「まあ、行って来い。若気の至りというものじゃ。陛下もディーノも奥手でのう・・・」 「よし、じゃあ行ってくるぜ。いくぞ、ディーノ、アーク」 タックはディーノとアークを連れて茂みに入っていった。 タック達は気配を殺して茂みから温泉を覗き見た。 まだ、女性陣は来ていないらしく、温泉はがらがらだった。 温泉というよりか大きな水たまりという方が正しいようなところで、動物が入りに来るんじゃないかと思われる。 「なんだよ、まだか。ま、ゆっくりと待とうぜ」 タックはその場に座り込む。 「お、おい、いないんだったら戻ろうよ」 ディーノは慌てながら言う。 「ばーか、ここまで来て何言ってんだよ。それにほら、入ってきたらしいぜ」 温泉の方には複数の気配が感じられていた。 「わーい、温泉だー」 「おんせんでちゅ〜」 アリーナとプリムのはしゃいだ声が聞こえてきた。 「アリーナ、はしゃぎすぎよ。もうちょっと静かに出来ないの?」 「いいじゃないですか、ルシーダさん。それがアリーナさんの良いところですよ」 そして、ルシーダとフェリオの声。 「そうですね、妃殿下の言う通りかもしれませんね」 「ちょっとエレノア、こんな所でまで畏まらなくてもいいじゃない」 「わかったわよ、姉さん。そんなに悲しそうな顔しないでよ」 悲しそうなフェリオの声とそれに慌ててるエレノアの声。 「あら、ファナ入らないの?」 「いえ、あの、熱くは・・・ありませんか?」 「大丈夫よ。ちょうど良いわ」 「では・・・」 茂みの向こうではタック達がなんとか覗こうと頑張っていた。 しかし、いつの間にか出た湯煙に遮られて女性陣の姿はまるで見えなかった。 「くっそー、なんだよこの湯煙は」 「見れないよ、やっぱり戻ろうよ」 「いや、ここまで来たら絶対見てやる」 「わ〜い、わ〜い、楽しいでちゅ〜」 「わ、プリム。やめなさい。きゃっ」 はしゃいでいるようなプリムの声とばしゃばしゃと音が聞こえる。 「なんだよプリムのやつ、温泉で泳ぐなよな」 「全くねぇ・・・アリーナ、ちゃんとしつけなきゃ駄目よ」 「なんであたしなの!?」 「だって、アリーナが保護したんでしょ?だったら、それくらい当たり前じゃない」 ルシーダの言葉に声を無くすアリーナ。 「うるっせえな、気が散るだろ!!」 大声を上げるタック。 「タックは何してるの?」 「決まってんだろ、覗きだよ、の・ぞ・き!」 ルシーダの問いにタックは答える。 「へぇ〜、そうなんだ。ディーノも一緒にやってる訳ね」 怒りをなんとか抑えながらエレノアも言う。 「まったく、アークまで何やってるのよ」 呆れながらフェリオも言う。 「へ?」 恐る恐るタック達が後ろを振り向くと、目の前に剣が振り下ろされた。 そこにはエレノア、ルシーダ、アリーナ、フェリオが立っていた。 4人ともちゃんと服を着ている。 「よくも覗いてくれたわね」 ルシーダは笑みを浮かべて言う。 しかし、目が笑っていなかった。 「ファナ、プリム、もういいわよ」 フェリオが声をかける。 「もういいんですか?」 「いいんでちゅか?」 すると、茂みの中から服を着たままのファナとプリムが出てきた。 「え・・・・」 絶句するタック。 「さて、どうしてくれようか?」 「ちょ、ちょっとまて。話せばわかるっ!」 薄ら笑いを浮かべるルシーダに逃げ腰気味のタック。 「ディーノォ〜〜〜〜」 ルシーダとはうってかわって憤怒の形相のエレノア。 「エ、エレノアさん。待って、これには深いわけが!」 ディーノは大慌てで言う。 「もう、アークったら・・・」 「あ、いや、あはははは・・・・」 フェリオの静かな責めにアークはたじたじだ。 「結局見れてないんだからいいだろ!!」 開き直ってタックが言う。 それが彼女らの逆鱗に触れた。 「「「ふざけるな〜〜〜〜〜〜!!」」」 バキィ、ベキィ、ボキィ!! 「「ぎゃあ〜〜〜〜〜〜〜」」 タックとディーノの悲鳴が辺りに響きわたった。 「「ぎゃあ〜〜〜〜〜〜!!」」 辺りに悲鳴が響きわたる。 「見つかったらしいのぉ」 「自業自得です」 タックとディーノの悲鳴に辺りの鳥達が飛び立つ中、ドカティとナルシスはのんびりとお茶を啜っていた。 「タックさんがそんな人だったなんて・・・」 エレノア、ルシーダ、アリーナの集中攻撃を受けてボロボロになっているタックに向かってファナが哀しそうに言った。 <終わり>