天使の涙SS:太陽神の憂鬱 「ふぅ・・・」 私はまたため息をついた。 ここはフェルサリア城の一室。 闇の至高神ディメトルとの戦いからそろそろ一週間経つ。 本来なら、すぐにでも元の時代に戻った方がいいのだが、みんなに説得されて少しの間ここに留まることになった。 アーク王は王都フェルサリアの復興に忙しいらしく、王都に戻ってきた日にモハドという人とランティアという人に連れて行かれてしまった。 他のみんなも一度故郷に戻ってから再び王都に来るそうだ。 私とアシッドさんはそれぞれフェルサリア城の一室をあてがわれた。 「はぁ・・・」 コンコン 私が今日何度目かのため息をついたとき、ドアがノックされた。 キィ・・・ 「ファナ、いいかな?」 ドアを開けて入ってきたのはフェリオさんだった。 「はい、なんでしょう。フェリオさん」 あ。 私の返答にフェリオさんは少し、沈んだように見えた。 フェリオさんのフルネームはフェリオ=フォン=フェルサリアといい、私――ファナ=フォン=フェルサリアの祖母である。 まあ、今私の目の前にいるフェリオさんと私は肉体的な年齢は2,3歳しか違わないが・・・・ 「ごめんなさい」 慌てて私は謝った。 「あ、別に良いのよ。私だって自分と2,3歳しか違わない人をお祖父さんとかお祖母さんとか呼べないもの」 頭を下げた私に慌ててフェリオさんが言った。 「ねぇ、そんなことより・・・街に出てみない?」 そんな突拍子もないことをフェリオさんは言った。 そして私達は街へとでた。 街は思ったより活気に溢れ、人々の声で賑わっている。 お忍びなので私もフェリオさんも町人の服に着替えている。 町人の服はフェリオさんが何故か持っていた。 その事について聞くと 「私もアークも時々こうやって街へ出ているのよ」 と言う返答が聞けた。 「あ、これ下さい」 しかし、フェリオさんは見事に町人と化し、街の若奥様と言った感じだ。 「ファナ、これ食べない?」 フェリオさんは手に何か丸い物が刺さってる串を持っていた。 私はフェリオさんからその串を受け取り、丸い物を食べてみる。 それは何とも不思議な味がした。 「美味しい?」 フェリオさんは聞いてくる。 「う〜ん、不思議な味ですね・・・」 私は感じたことをそのまま言った。 「そうなのかなぁ・・・ファナにはそう感じるのかぁ・・・」 私の言葉にフェリオさんはうんうんとうなっていた。 私達はそのまま街を歩いた。 そして、子供達の遊び場についてそこで一休みすることになった。 目の前で子供達が走り回っている。 「それで、何悩んでるの?ファナ」 隣に座っているフェリオさんが唐突に言ってきた。 私はその言葉に振り向く。 すると、フェリオさんは真剣な目で私を見ていた。 「どうしてわかるのって顔してるね。わかるわよ。私は悩みを持っている人を何度も見てきたんですもの」 フェリオさんは言う。 「ファナは何を悩んでいるのかな?」 包み込んでくれるような暖かさを持った微笑みを浮かべてフェリオさんは言った。 その微笑みに押されるように私は語りだしていた。 「私はこのまま帰ってはいけないような気がして・・・」 「なんで?」 「タックさんのことです」 「タックのこと?」 「はい、私はタックさんに対して、なにかちゃんと応えて上げないといけないと思うんです」 私の言葉にフェリオさんはにっこりと笑った。 「そうね、タックは本当にあなたを想ってるわけだし・・・あなたのその考えはいいと思うわ」 「でも、なんて言ったらいいのか・・・」 「あなたが思ってることを言えばいいのよ。それでタックが傷つくとしても、心にもないことを言うよりかはずっと良いと思う」 「はい・・・」 私はフェリオさんの言葉にそう答えた。 でも、本当のことを言うと、タックさんを傷つけたくなかった。 「ファナさ〜〜ん」 見ると、頭にバンダナを巻いた船乗りの少年――タックさんが走ってきている。 「あら、噂をすれば・・・じゃあ、お邪魔虫は消えるわね」 そういってフェリオさんはお城の方へ戻っていった。 「ファナさん、こんな所で何をやってるんですか?」 タックさんはフェリオさんに気付かなかったのか、私の元にたどり着くなりそう聞いてきた。 「お散歩です」 私はそう答えてタックさんの方を見る。 「そうですか、そうですよね。何言ってんだろ俺、あははは・・」 タックさんは嬉しそうに笑っている。 「それで今日は何のようですか?」 ついそんな乱暴な口をきいてしまう。 タックさんはそんな私のことは気にもとめずに、話し出した。 「いえ、明日ファナさんが元の時代に戻りますでしょ。ですから、これをファナさんに返そうと思って」 そういって、タックさんは一振りの剣を私に差し出した。 それは鍔に太陽が彫られている剣――太陽の剣だった。 「でも、これは・・・」 これはタックさんのお父様がタックさんにお遺しされた物だと私は聞いている。 「そんな大切な物は受け取れません」 「いえ、これはファナさんのものです。ファナさんが持っているのが正しいです」 そういって、タックさんは一歩も引かない。 「あなたは私があなたを好いてると思ってるんですか」 私は言う。 「あなたのような人が私と釣り合うと思ってるんですか?」 この口で、自分に言い聞かせるように。 「私はあなたとは結ばれない人間です」 はっきりと宣告した。 タックさんは私の宣告に俯いていた。 まあ、ここまではっきり言ってしまったのだ、嫌われて当然だろう。 「それでも・・・・」 俯いたままでタックさんは何かを言い出した。 「それでも、これは受け取って下さい。僕なりのけじめですから・・・」 そういって顔を上げたタックさんはぎこちなく笑っていた。 「それじゃ、僕はこれで・・・」 タックさんはそういうと、走り去っていった。 太陽の剣と私をそこに残したまま・・・ 「はぁ・・・何やってるのよ・・・私は・・・」 これじゃあ、タックさんを傷つけただけじゃないか。 激しく自己嫌悪する。 私はここにいても意味がないので、フェルサリア城に戻っていった。 私は部屋に戻るとご飯も食べずに外を眺めていた。 タックさんと話した後からずっと自己嫌悪をしている。 別れ際のタックさんのぎこちない笑顔が頭を離れない。 私はなんて事をしてしまったんだろう。 鬱蒼と晴れない暗い気分だ。 私は自身を許せないまま、一夜を過ごした。 そして、夜が明けて私とアシッドさんが元の時代に戻るときが来た。 みんなが見送りに来ている。 でも、その中にタックさんの姿はない。 やっぱり、怒ってるんだ・・・ 私の気分は晴れない。 「ねぇ、あれみて!!」 不意にフェリオさんが声を上げる。 フェリオさんの向いている方を見る。 そこには真っ黄色の帆をはった船団があった。 タックさん・・・・ 「黄色は太陽神を表す色でしたな。前に彼に聞かれて教えたことがあります」 隣でアシッドさんが呟く。 ありがとう・・・・ 「さ、では行きましょうか」 「はい」 私は答えて、アシッドさんと一緒に時の扉にはいった。 「ファナ様、ファナ様。着きましたよ」 アシッドさんの声に私は目を開く。 目の前には見知った町並みが広がっていた。 王都フェルサリアだ。 「ファナ様。私も自分の時代に戻ります。どうか、お元気で・・・」 「はい、アシッドさんもお元気で・・・」 私が答えるとアシッドさんは再び時の扉に入っていった。 アシッドさんが時の扉にはいるのを待っていたかのように時の扉は消えていった。 そして私は走り出した。 ある場所を目指して。 そして私はある家の前にいる。 50年前と全く変わらないその家はとある港町にある。 50年前とは違う理由で私はここに立っている。 50年前は魔石を集めるために海を渡るため。 そして今は・・・。 私はその家のドアをノックするとこういった。 「すみません、タックさんはいますか?」 <了>