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夢舟亭
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エッセイ  夢舟亭    2007年11月17日


    鼻歌ではないのダバダバダ〜


 しばらくぶりで「ダバダバ」を聴いた。

 今では放送で流されるなどないから、ダバダバといっても分かる人は少ないと思う。
 スウィングルシンガースが、そのダバダバの歌い手たちである。

 ダバダ、ダバダバダーのスキャット唱法だ。
 歌詞なしで、知られたクラシックを歌うフランスの男女グループだ。
 センスのよい響きでハモる人たちである。
 70年代だったか、よく聴いた。

 日本にも何度かきてコンサートをやっていると思う。
 だが、私はもっぱらレコードやFM放送で楽しんだ。
 いうまでもなく音楽の友はテレビではなくラジオなのだ。

 スウィングルシンガースは、バッハの曲などが得意らしい。
 同じフランスのバッハをジャズで演奏するアルバム「プレーバッハ」シリーズでおなじみの、ジャックルーシェトリオと曲調が似ている。
 じっさいに、スウィングルシンガースとジャックルーシェトリオは共演をやっている。

 またスウィングルシンガースは、クラシックのジャズ風コーラスばかりではなく、一時人気があった映画「黄金の七人」シリーズでテーマ曲を歌っていた。
 知的過ぎるあまり、取り分の独り占めに失敗する強盗ボス教授と、その男女仲間7人が大シゴトしそこねる娯楽映画だった。
 小粋な面白さとコーラスがよくマッチしていた。

 ダバダーとか、シャバラバラーの唱法はジャズによくあるらしい。
 エラ・フィッツジェラルドほかも分厚い声でシュビヤ〜シュビシュバ〜とスイングしているのを聴いたことがある。
 人の声が楽器になる感じの、あの唱法はスキャットとかハミングといわれる。

 ついでに補足を加えれば、今では童謡姉妹とか叙情歌コンビと言った方が分かりが早いあの歌手の、「夜明けのスキャット」。
 あれで、らーららららー、と歌われたのもそうだろう。
 また民放系深夜テレビ番組「11PM」のタイトル時の、しゃー、だばだば、といえば思い当たるだろうか。

 上手く歌えばなかなか軽快で、ご機嫌になれる。
 なによりも意味ある言葉がないから、私でも楽しめる。


 それら歌手たちのスキャット名唱はともかく、ハミングや鼻歌の類として思えば。
 私も日常生活のなかに、無いわけではない。

 神が「目覚めよと呼ぶ声」を唱えるまでもなく。
 空も心も気分爽快な朝に、早起きしては「ふふんふんふん」と動きまわっていたりする。

 らりら、らりららら〜・・、そよぐ風ぇ〜。港ぉ〜出船のぉ〜ドラの音高くぅ〜。しゃらら〜らら、らりららら〜デッキで振ればぁ〜。ごほっ。

 などと、おおよそヨハン・セバスティアン・バッハ大先生の作とは異なるが、切れぎれのでまかせ歌謡歌詞に、らりらのハミングをサンドイッチしたりする。
 このときは、たいがい楽しいひとときなのだ。

 それにしても、と思うのだが。
 この曲、いつどこで憶えた何の曲だろう?

 何気なく口ずさんでいて、それはたしかあの曲ね、と家人にいわれて。
 何か歌ってたかな、と自分でも戸惑う。

 戸惑うのは、曲名を思い出せないのもあるが、歌詞の曖昧憶えのこのメロディーが、どうしてこの唇から漏れたか。
 のその意外さに、である。

 しょうもない事に凝って夢中のなかで。
 まもなく仕上がるぞという、いまひと押しの追い込みどきに。
 自分の気持ちを鼓舞する景気付けに。
 らりら〜、や、ふふふ〜んと歌うようだ。

 さらに良い結果に向かい、楽しくてようがない時点では。
 ハイホー、ハイホー、ら、らリらら〜〜。らりらら、らりら、らり〜ららら〜ハイホー!
 と、これはディズニーの白雪姫こびとのマーチだというが、口笛混じりでやっていたりする。

 またクラシックもある。
 じゃじゃじゃじゃぁ〜ん。
 これを歌うのは、どんな状況かとなれば。
 うずくまっている猫を見つけて、後ろから寄って、ひげをつまむときなどである。
 さぁ、うまく気づかれないでできるかなぁと声低く・・。
 いうまでもなく楽聖ヴェートーベンの交響曲5番、その1楽章冒頭だ。

 で、これが失敗して。
 ひっかかれて痛い思いをすれば、バッハに変わる。
 ちゃららー、らりらら〜〜ん。
 オルガン曲といえばもうお馴染み。あの冒頭。
 何か行ったものの失敗残念の瞬間のテーマ、定番である。

 ほかにも、思い出すまま並べれば・・

 たんたか、たんたか、たんたんたん、のラデッキー・マーチ。

 すったん、すったん、すったかすった、のシングシングシング。

 りらららー、らりらー、りらららーでダニューブ・ウエーブ。

 てぃんからら、てぃんからら、らー、りーらーりららー、はA列車で行こう。

 ぱんぱか、ぱんぱか、ぱんぱんぱん、りーららいら、はウイリアムテル序曲。

 しゃ、らりらー、しゃ、らりらー、しゃらりらーらーらー、は聖者が町にやってくる。

 ぱ〜、ぱっぱかぱららー、じゃーん、じゃらりらー、は軽騎兵序曲。

 ・・などなどとまぁいろいろ。
 曲名知らず、演歌も含めて。
 そのほんの一節が、ちょろっと顔をだしてはくり返す。

 こうした歌をいつの間にか口ずさんでいたりするのは、なにも私に限ったことではないだろう。
 無くて七癖。
 友人などにも廊下の行き交いトイレの一瞬。
 タバコの合間に。
 ふふふ〜ん、らりら〜とやっているのを見受けることがある。

 ただしメロディーが何なのか分からないことは多い。
 お互いがそういうものなのだろう。

 いつ、どこで、どう憶えたのかなんて自分でも分からないのに。
 数十年来、ふいと舞い出ては喉や口を動かしてしまっている。
 面白いことに、曲とその状況との関係はたいがい同じなのだ。

 それにしても自分でいうのも可笑しいが、選曲はかなり意外なのもあるのだ。
 長い間、曲名が解らなかったのもある。
 長く自分の心の中に居着いて、口ずさみながらも、いつとはなしに忘れ去った曲もある。
 去ってしまった後にまた舞い戻ってきて口から洩れるのもある。

 それらを歌うつもりもなければ、歌わなければならないとも思わないで。
 ふいっと口ずさんでいるのが可笑しい。

 歌う気はなかったというが、じつは自分のどこかでそのメロディーのもつ雰囲気を欲しているのだろう。
 だから自分の心を慰めたり元気付けたりするのだと思うのだ。

 ダバダー、ダバラ リララァ〜。
 いえぇ!





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夢舟亭
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夢舟亭
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