・・・・
夢舟亭
・・・・


夢舟亭 エッセイ   2006年06月06日


   エモン・ムラカミ的寓話

    (1)


 おいそこのサンピン野郎! ちょっと顔を貸しな。おう、そうよぉ、おめえだ。

 あの、何か?

 へっ。おっかしなツラしゃがって、目ン玉光らせんじゃねえばか野郎。
 用があるから呼んだんだ。
 おめぇ、いやに羽振り良いようだが、ここでいったい何してやがるんだ。えぇっ!?

 何って。
 みなさんと同じ株商売ですが。
 ニホンもですね、そろそろ今までにない世界に通用するオープンなビジネス環境にしないといけません。
 何せ、体質が古すぎます。株主としても大いに意見を出して・・

 ぅルるせえ!
 どこがみなさんと同じ商売で、古すぎる体質だ。
 この野郎。おめえ自分を何様だと思ってやがる。ふざけんじゃねえやい。
 ここはなぁおめえのような新参野郎が商売しに来ることろじゃねえんだ。
 またこの野郎ときたら、無礼にもやたら儲けやがって。
 少しは遠慮ってものがあるだろうが。
 おう、そのカネ全部置いて、とっとと出てきゃがれぇ!

 出てけ、とそう言われましてもですね。
 別に誰が来てどう儲けて悪いという決まりは無いはずですよ。
 資本主義社会は、ですね。
 だーって株世界は今はグローバルですし・・

 何おう。決まりだとう!?
 このバカ野郎。ナメた口きくんじゃねえ。
 おめえ分かってねえようだな、えぇっ。
 あちらを見ろ。
 あのお金持ちの大旦那衆の皆さんが、おめぇのお陰で大損して。
 不愉快で、大いに迷惑してらっしゃるんだよう。
 さっさと出てけっ!
 つべこべ言って出てがねえと、野郎、こうだっ。

 痛い!
 ひどいじゃないですか。乱暴だな。
 私の何が悪いんです。私は正当なビジネスをしてますよ。

 正当だとう!?
 ばーか。ここではなあ、正当だとか正直だとか、そういうガキみてえなことは通用しねえんだよぉ。
 決まり事はな、ここを取り仕切ってる大旦那衆がお決めなさる。
 昔からの商い慣習の慣例ってやつだ。
 がたがた言って出てかねぇと、ホリ兵衛の小僧と同じめに遭うぞ。
 おめえ、牢にぶち込まれてもいいのかっ!

 ホリエくん!?
 彼の場合は、番所が証券取引法違反だと決めつけたと、報道瓦版にあっが……。
 私の場合は……。
 まさかそういうことには……。

 バカかおめえ!?
 あれはなぁ、何度もナメたことしたIT小僧の見せしめだよお。
 へっ、証券法とか何だとかなんてものは、こじつけだ。
 あちらに居られる旦那衆が気に入らねえとなりゃあ、正しかろうがなんだろうがお終いなんだよぉ。
 どーんな言い訳しても泣いても潰されちまうんだ。
 報道瓦版なんてものは、町人どもをあざむく旦那衆の道具に決まってるじゃねぇか。
 ばかな町人どもをあおって大勢味方に付けりゃ決まり。
 番所だって、大旦那衆の言う通りに動くのよぉ。
 だからおめえたちに味方するやつなんて誰も居やしねぇ。
 そこんところを、よーく憶えて。
 これからも商売の邪魔する出過ぎ野郎が現れねえように。
 帰ったら仲間に、よーく言っておけ。

 そうかぁ……世界一の会社を作る、なんて頑張ってたのになぁ。
 では、私も、正しいんだとか叫んでも、もう報道瓦版にも番所にも、町の人にも分かってもらえないのかぁ……。

 へっ。おめえ、まんざらバカじゃねえようだな。
 そうってことよ。
 正しいとかどうとかなんてのは、どうでもいい屁みてえなもんだ。
 おめえらみてえな生意気な出しゃばり野郎を潰すと決まりゃ、旦那衆には知恵袋のセンセイたちが腐るほと居てな、知恵をしぼってくださる。
 おめえらを罪人に仕立てて町のばかどもを信じ込ませる手を考えてくださるのよお。
 ってえと、おめえたちは、さらし引き回しのなかで、わけも分からん町人どもに、石ぶつけられるってわけだ。
 血祭り、生け贄だな。
 金儲けってものはな、しょせんおめえたち成り上がり者が交ぜてもらえるこっちゃねぇんだよお。
 むかーしから、これからも、大店連の旦那衆に勝てるわけねえに決まってるじゃねえか。
 分かったか。分かったらここまでの儲け置いて。
 もっともこれからなんやかんや難癖つけてはっぱがす手はずだがな。
 さぁ、とっとっと消えやがれえー!

 うへぇー。私が悪うございました。命だけはお助けを。

 がっはっは。
 ばーか。デカイこと言いやがったくせに、ザマねえや。
 おととい来やがれぇ〜。

 これ、ゴン助。
 何を言っているかと思えば。
 口がすぎる。
 誰が聞いているかしれません。

 へっ。旦那様。

 それより、番所は、まだかね。
 さっさと番所の手で牢に放り込んでやってもらいたいがね。
 皆様も心配しておられる。
 それと、報道瓦版に手はまわしてあるだろうね。
 味方する者などが出ないように、いいね。
 それにしても、あの小賢しい若者たちの手を止められる。
 ああ、せいせいしましたよ。
 塩でも撒いておきなさい。

 へっ。




2006年06月10日


   今どきの寓話
 【エモン&ムラカミ】
    (2)


 さあさあ。お役人様、奥へ。ゴン助。そこの戸を閉めて行っておくれ。

 へっ。

 お役人様。今夜はようこそおいで頂きました。
 さあさあまずは駆けつけの一杯。

 むっ。おう、これはうまい酒じゃのぉ。

 お仏蘭西は蔵元から直々樽開けの絶品でございます。
 お気に召したら、番所のほう、いやご自宅へお送りしておきますゆえ。

 むっ。

 それはともかく。
 お役人様。この度の一件。お手間をお掛けいたしまして。
 お陰様で前回のホリ兵衛同様、今回のムラ上之介の件も無事取り除いていただきました。
 まことにありがとうございました。
 さすがお役人の手はずに抜かりはないものだと、大店会のご一同様も胸なで下ろしているところで。
 呉々もお役人様には、よろしくと。

 むっ。

 さあ、さあ。ぐーっと参りましょう、ぐっと。

 むっ。

 何せ今時の、若いだけに礼儀をわきまえぬ商売新参者に困っております。
 礼儀はもちろん、しきたり慣例もみな商売の常道であり、この国繁栄の基でした。
 それに比べて、昨今の若者の何だか分からぬIT商売のばか儲けはいけません。
 思いも寄らぬ手口。あのての非礼は目に余るものがございますからなぁ。
 そこを、ぎゅっとお灸をすえるのが、へへ、お役人様のお役目。
 きれいに取り除いて頂きました。
 一時はどうなるかと、一同心配のうえのお願いでございました。
 ささ今夜は、もう一杯ぐーっと。
 これ、だれか。
 ゴン助や、お代わりを、ここにまとめて持ってきておいて、おくれ。

 へっ。これへ。

 そこの戸、閉めてな。
 さあ、どうしましたお役人様。今夜は、いまひとつ冴えませんな。

 いやいや。なかなかの美酒で、酔うた。
 うぃっ。
 と、ところで、越前屋。

 はい。なにか。

 むっ。おまえたちは、こんな手で若手を取り除いて、いつまでやって行けると思って居るのか。
 ういっ。

 はぁ!?

 いつぞやも申したが。
 何のかんの言っても、三十男に出し抜かれる経営などは、罪であるぞ。
 それもまぁ学生気分も抜けないような、まだ子供にだな。
 ゲームの様に完敗しおった。
 今回の、ムラ上之介とて、前のホリ兵衛だって、似たようなもの。
 すべておまえたちの弱点を突かれて起きたことの、火消しじゃ。
 分かって居ろうが、お上もとうに見抜いておるぞ。

 そのことはぁ……。
 まぁまぁ、それよりさあお空けになって、ぐーっと。

 むっ。
 いったいわが国の経営者どもは、どうなって居るのだ。
 あと何度こんな間抜けな失態を演じれば、済むのだぁーん。
 いや、酔ったな。
 わしら役人とて、からくり人形ではない。
 少しはな、この胸にも役人魂がある。
 国を思う気持ちも、あるのだ。分かるか。

 それはもう。さあお空けなさいましな。

 ひくっ。
 おまえらは、いったい経営能力というものをどう考えて居るのだ。
 これからの世界はな、知の経営合戦じゃ。
 わが国の経営者どもの真の力は、通用すると思っておるのかぁん。
 ちょいと賢い若者の、ションベンごとき攻めで、あっちにふらふら、こっちによろよろ。
 野球も、放送も、電車も。
 なにもかもしてやられる。弱みを突かれ、すぐに負けるではないか。
 何年経営をやっておる。
 いや永いところほど、してやられる。
 で、どうにも成らんと、何とかしてくれと泣きついて来る。
 裏では瓦版報道など使って、町民どもを欺きあっちを向かせてしまうが。
 そうしてわしらに、この道浅い素人ほどの若者の首を、はねらせやがって。
 しかし……町人どもも、気がちがっておるのぉ。
 なんと人情味の無いことよ。
 たった一人の若者に、寄ってたかって皆で石ぶつけおる。
 まぁ妬みもあろう……が、世も末じゃ。
 こーんなことでニホンの国は良くなるのかぁーん。

 お役人様。
 今夜はいやに悪酔いのようございますな。
 では、新しいところをお注ぎしましょう。さ、きゅーっと。

 ばっかもの。
 心ある町民は、夢も希望も無い社会だなどと寂しく申しておるぞ。
 じょ、じょーだんじゃない。虚しいのはこのわしだ。
 国中をあざむいて、たった一人の若者を締め上げるために、このわしは学所で勉学を修めたわけではなーい!
 分かるか、越前屋ッ!

 はい。そりゃもう。ささ、もういっぱい。

 うるさい。おまえは、分かっておらん。
 もう一度申す。
 真の罪人は、三十男に出し抜かれるような、隙だらけで時代遅れのお前たち経営の古狸たちだ。
 それ以外に無い!
 どうだ、もういい加減に降参して、研究熱心な若者たちに譲れ。
 活力が出てニホンは良くなるぞ。
 また無能なくせに、いつまでも国内仲良し寄り合い経営にしがみついてるから、すっかり軟弱に腐った。
 これからのカネ儲けはな、知恵だぞ。
 よーくふり返って見てみろ。
 どの勝負も、若者にあっけなく攻め込まれてしまったではないか。
 ホリ兵衛やムラ上之介の様に、若者を熱くする経営者などどこにも居らぬではないか。
 どこが違反だ。どっちが反則だ。
 泣きごとを言うな!
 わが国の長年のプロが、若僧などひとひねりになぜ出来なかった?
 あの程度なのかと驚いている者も少なくないのだ。
 悔しくはないのか。
 だいたい勉強をして居るのかベンキョウを!
 脇も背中もてんで甘い!
 まるで江戸開国前のレベルではないか。
 よくもスカスカがらんどうのわが国の経営実力の無様さを、賢明な者は笑わぬものだ。
 いや町民とてばかばかりではあるまい。
 おまえたちが報道瓦版で誤魔化して取り上げないのだろう。
 新進の儲け頭に育つほどの首を、またかっ斬ったとは情けない国だのぉ。
 またおまえたちはそういうことにはよく気が回る。
 ばかか。
 恥ずかしくはないか。
 皆の心を曇らせ、やる気や希望を奪い取ることは、末代に続く、大罪だ。
 まあ、おまえには、あぁ、分かるまいのぉ。
 あー。眠い…………

 まあまあ。お役人様。そう尖らないで。
 お空けくださいまし。
 だ、誰か!
 ゴン助。例のものを持って来なさい。

 カネか。
 カネなど要らぬ。
 どうせおまえらは、また負けて泣きついて来るのであろうのぉ。
 そのうちに、ふふ、手に負えない小学生の株主を捕まえてくださいまし、などと申すのかもしれぬな。
 ぐぁっはっはっは。
 ……ぐーすーぴー。

 あれあれ。このお役人も焼きが回りましたね。
 そろそろ入れ替わっていただかなくては、大事なこの国の商売が安泰できませんよ。



2006年07月13日


   今どきの寓話
 【エモン&ムラカミ】
    (3)

 
 うむ。そこまで来たのでのう。寄ったぞ。

 これはこれは。お見回りご苦労様でございます。
 ところで……あの件で、またまた世間が騒々しい様ですが。
 なんでも、あの件に絡んでいたということで、金銀元締めのお目付け、総裁が……

 む。それよのう。
 おまえたちが、つまらぬことをわしらに頼んだ件のとばっちりで、お上の政争のえいじきになったのだ。
 あまりばか騒ぎばかり続けておると国が傾くぞ。
 よいか。今、このいなか国にも、ようやく新しい考え方の活況経済新勢力が広まっておるのじゃ。
 経済構造ひえらるきーの破壊、とでもいうかのう。
 固く古い経営者も、どうにも成らぬだめ会社も、リストラ整理せねばのう。
 国の土台が腐る。刷新じゃ。
 世界には、産業経済地殻の変動が起きておるのだ。
 五〇年来の古い考え方では、もういかん。
 おまえらが嫌って葬ったホリ兵衛とムラ上之介の件で、皆だいぶ目ざめた様だがな。
 この意味、分かるか、越前屋。

 はぁ……

 考えてもみよ。
 何といおうと、無一文の若僧がだ、数千億の価値を生み出した。
 われらの前で、実証したであったな。
 そうだったな。

 まあ、そうでしたが……

 見なかった者はおらぬはずだ。
 そこをよーく思い出せ。
 そして数えてもみよ。
 無一文の若者は頭一つで、いったい何千倍何万倍に金を増やした?
 田畑を耕したわけでもなければ、荒海に船を漕いだのでもないのだ。違うか。

 そこでございます。お役人様。商売というものはやはり・・

 そこだ越前屋。
 これからは、知恵なのだ。知恵ひとつでこうまでなるのだ。
 分かるか越前屋。
 そういうビジネス経済の時代なのだ。
 彼らが、いかに優良銘柄であったか。
 はからずも総裁が買っていたことで、証明してくれたかたちよのうぉ。
 古い談合型寄り合い経営の落ち目株を、もはや総裁ほどの目では買わぬということだ。
 さすがお目が高いな。
 新しい目をお持ちだ、とわしは見るが、どうだ。
 皆ズル呼ばわりしておるが、なぁにおまえだってあの株を欲しかったのではないか。

 たしかに……いやその様なことは……

 わっはっはっは。
 越前屋、よく聞け。
 それほどの価値を生めなくては、または見透せなくては。
 これからの世界のビジネスで生きてゆけないのだぞ。
 頭脳プレーの時代だということよ。
 情報化の時代なれば、情報を徹底活用だ。
 情報は、変形加工歪曲ねつ造となんでも出来る。
 出来ることはやるものだ。
 おまえたちの宣伝CMだって、騙しであろう。違うか?
 どこまでの騙しが許されておるのだぁん?
 効く、うまい、やせる、安いと、町民を騙し買わせる。
 あれは無罪かのう。ふっふっっふ。
 これからは知力、知恵、知能の田畑を耕さなくては、経営などとても出来ぬ。
 おまえだって、額に汗して土塊をいじっておるわけではあるまい。
 知恵では、爺さま経営者が、小僧の知恵に、勝てないことがよーく分かったではないか。
 若者を熱くも出来ないおまえたちは、とてもとても闘えぬ時代よ。
 もういい加減、気付け。越前屋。
 情報とか知恵の合戦で価値を創造して、勝ち取る時代はな、額に汗した兵隊小物ばかりではだめだ。
 国などあっというまに買われてしまうぞ。
 これはミサイルよりも速く恐しい。
 われら番所も、そうなればどんなに泣きつかれても手が出ない。
 行儀など悪くとも、生意気だとて、商い慣習を知らぬとも。
 とてつもない知恵が欲しい時代に来てしまったのだ。
 これからは、彼らの様な、まさかと思う大勝負を考えだして、見事にやり抜くほどの者でなければ、一歩も先に行けぬのだよ。

 しかし商売というものはやはり……

 越前屋。
 いつの時代も、既得権益の側の者はそういっては変化を嫌うものだ。
 古いおまえたちは、知恵有る若者を、年甲斐もなく性急に、邪魔だ潰せと言って悪者に仕立てた。そうだったな。
 その首をかっ斬ったのは、わしら番所だ、が。
 そのツケが、この先どういうことになるか分かるか。
 経済の、黒船やテロ攻勢は、今、地球の裏側からでも襲ってくるぞ。
 一瞬に国の経済などひっくり返えされる時代だ。
 おまえの店とて一瞬に買い落とされてしまおうぞ。
 そのときにだ。
 おまえたちの今のような商売慣例常識論で、勝てるか?
 一番痛い目にあって泣くのは、おまえたちではないのかのう。

 ……

 いやわしはもう引退の墓場行きだからかまわぬが。
 まあ、古いおまえの脳みそに、どの程度分かっているものかのぉ。
 うはははは。もうよいよい。

 しかし…………。






・・・・
夢舟亭
・・・・

・・・・
夢舟亭
・・・・




[ページ先頭へ]   [紅い靴 メインページへ]