・・・・
夢舟亭
・・・・

<この文章は商業的な意図をもって書かれたものではありません>

文芸工房 紅い靴 エッセイ   2012年07月15日



   ギャレス・マローンという青年先生


 英国BBC放送のドキュメンタリー番組(NHK-BS-1放映)で、ギャレス・マローンという青年の行いを、何度見ただろうか。

 1975年生まれというから2012年現在37歳。音楽の先生・・というには、彼の幅広い才能を正確には言えてないと思う。

 今では、コーラスグループ、合唱隊を、ゼロから組織してそれを本物に仕立て上げる名人だ、と知る人は母国英国内外問わず多いようなのだ。

 私が、その彼の行いを追い続けたドキュメンタリー番組を見たのは、もう数年も前になると思う。

 最初は、彼が、街で差別の目でみられている人、歌うことなどにはまったく関心を示さなかった人に声をかけては「歌うたわない?」と誘い込み。
 何度かの行きつ戻りつにめげず励まし、数ヶ月の苦労の末に、市民ステージで聴かせては、やんやの喝采称賛されるまでに磨き上げる。そんな姿が映っていた。

 その後、彼の能力は、英国内で次々と発揮される。
 そちこちで小中高生たちや父兄や教師たちへ、イラクなど遠征中の軍兵の妻たちへ、と・・

 そうしたどの試みにおいても共通なのことは、「なに歌だってぇ」、「おれが歌なんて」、おれにわたしには縁のないこと関係ないはなしだと無視されるところから始まる。
 クラシックもオペラ曲あれば宗教的選曲があれば、本場ビートルズものも当然あるしラップ系も唱うことになる。
 編曲してはひたすら練習に参加させる。
 なかには独唱ソロを歌うことになる者もあり、そのオーディションでくじけそうな子を励ましもする。それらの言動がじつに素晴らしいのだ。

 もちろん彼ギャレスマローンにとって、それらの苦労は覚悟の上。ごく想定の範囲内でのスタートなのだ。

 彼には、「わたしの昨日までの子が、こんなにも歌が上手だなんて」、「ぼくは生きる自信がつかめた」、「一生の感激だ信じられない」、「プライドがもてた」、「やれば出来るんだ」、「止めなくて良かった」と、人前で受けた拍手、歓声止まぬ発表会の後で、合唱団員が目頭を押さえつつ彼に握手を求めてくる別れの時を確信しているのだ。

 この彼のやっていることを、歌を音楽を楽しむ一人の青年の行い、として過ぎるには言い尽くしていないものを感じるのだ。

 出向いた街で出会う人々とその関係者を巻き込みその気にさせ、その後できるだけ大きな発表の場を目標として設定し皆に向かって掲げ、自信をつけ励ましつつついに成功体験を味わうということの、道案内を成し遂げるのだ。
 そう、必ずやってしまうのだ。

 その実現のために、歌がある、に過ぎないともいえる。
 それは彼はたまたま音楽を学び名門オーケストラで働いた経験があるからであり。絵画が得意なら絵の魅力を伝えたろうし、文学ならそれも手段となったのではなかろうか。
 科学技術であったなら、あるいは経営などを専門に学んでいれば、と手段は種々あろう。

 いずれにせよ、彼はゼロ無からの環境から始め、人々の心を掴みつつ盛り上げてゆく名人であることに変わりはないように感じる。

 私は、日本にもこうした教師が・・などとヤボなことを言う気はないが、そのコトに夢中になり、情熱をもってあたり共鳴共感を獲得しながら。ついにはその気にさせる才能というものの素晴らしさに、番組を通して感動したと言いたいのだ。

 権力による命令で仕方なく行動させたり、金品という餌によりあいまいな目的でし向けることも出来ようけれど。
 自由選択の心をその気にさせたり、夢中世界にひき込み自から行動しないではいられないというようにしてしまうことには、本人の歓びの大きさとして思えば、まったく結果がちがうだろう。

 どのシリーズ番組の最後の部分でも、「私の生涯最大の感動だ」と、参加した合唱隊員やその家族友人が驚喜し抱き合う姿に、その意味が現れているように感じるのです。





・・・・
夢舟亭
・・・・

・・・・
夢舟亭
・・・・




[ページ先頭へ]   [紅い靴 メインページへ]