・・・・ 夢舟亭 ・・・・ |
<この文章は商業的な意図をもって書かれたものではありません> 夢舟亭 エッセイ 2014年 6月 8日 2010年日本映画「春との旅」 せっかくのマイ・ミニミニシアタールーム(と自分で思っているだけのただの自室)での上映も、うんざりがっかりしては、上映中途でやめてしまう作品が多い。 BSから録りためたものが中心だから、あまり贅沢はいえない。 そんななかで「何かある」と期待してスイッチ、ON。マイシアタールームの明かりをおとし注視したら…… これは良い。 期待にかなう。いやそれを超えた、見応えを感じた作品だった。 春、とは若い女性の名前だ。 春、は旅する老年男の孫娘である。 なぜ、自宅である北海道の片隅の漁村から、足の悪いこの老人が、二十歳の孫娘とふたりで旅をするのか。旅先でどんなことがあるか。 それがこのロードムービー作品の筋書きの本幹だ。 重なる事情が、二人を、いまでは縁遠い家族を訪ねさせることになったか、というところまでで、ネタ書きをとどめる。 さて配役だが、主役の老人は仲代達矢。孫娘を徳永えり。 脇役陣として配したのは、大滝秀治、菅井きん、小林薫、田中裕子、淡島千景、柄本明、美保純、戸田菜穂、香川照之。 どうでしょう。 これだけの演技者たちが静かな火花を交えるならば、じっくり鑑賞するには充分な作品であることが分かろうというもの。 寝転びのカウチ・ポテチ鑑賞など及びではない。顔を洗って脳みそを振り醒まし、両頬をひっぱたいて、じっくりと向き合ってくれと言いたいほどです。 さらに、これら演技陣を指揮する監督が、小林政広。 社会派というべき「日本の悲劇(2013)」、「バッシング(2005)」の監督といえば、内容は想像つこうというもの。 とここまでいうと、何か仰々しく、天下国家を怒号交えて訴える大作でもあろうか、と思うなら大間違い。 じっくり地味な現代今どきのニッポンを旅するけして珍しくはない生活者、老若家族二人を、ロングカット(画面を細かく切り替えず撮り始めたらそのままカメラを回し続けて演技する)で表現している。 そうした名演が何を訴えてくるか。 一言数行で何かを言い切ることがネットSNSなどで平然と交わされていたりするが、そぉんな簡単に物事は説けやしないでしょ。 そうでなく、自身がじっくりと真正面から向き合ってみて、最後エンディングタイトルに至ったところで、各自それぞれの人生と重ねあわせながら無言で種々思いめぐらすべきことだと思う。 清濁あわせ持つ大のオトナの心の、奥まで入ってきてしまって、ついおのれの人生の過去現在そしてこの先未来を思わずにいられなくなるような作品。 普通に見慣れた風景のなかで、ごく見聞きする人々の憎悪相克を、身近等身大で見せてくれては、ああそういえばこの自分も家族もひょっとすると、と連想想起させたりする作品。 美男美女が透明ガラスな心でウソ言葉を吐き散らかすようなことでなく。あるいは、毒々しい血のり噴きまくただ暴力残虐の虚仮威しなどではてんでなく。 人の一生ってものはハッピーエンドなどという終末を安易に望んでみても詮なきものだと、知らしめる。 それでいて日頃日常の不安とか辛苦とか悲哀に満ちた心が、ちょっぴり癒えて、ほのかな希望などが湧いたりする。 前評判華々しい花火打ち上げ宣伝で猫も杓子もをカモり人気を呼ぶようなものとはまったく別な、こうした作品こそ世の東西、古今新旧を問わず、良い作品だとわたしは信じているということなのであります。 |
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