・・・・ 夢舟亭 ・・・・ |
エッセイ 夢舟亭 2007年07月21日 日本の歌百選から「荒城の月」 生真面目に生活しているつもりなのに、その根底まで脅かされるような大小の事件や災害が報じられてきます日々。 見るに聞くに不安がつのり、自分は家族は大丈夫だろうかと思うものです。 そういうなかで歌や音楽の話などすると、そんな子どものようなアマっちょろいことを言ってはいられないよという若い顔を見ることがおおい。 大方が中流意識といわれた国内も、ここにきて厳しい生き残り競争のなかで生活の糧を稼ぐに精一杯となれば、そうした気持ちも分からないではありません。 ところが、追いたてられた生活を永年くり返していると、とくに困っているわけでもないのに、身も心もが心配性が習性となり癖となってやがては暗く浮かない人間になりきってしまう。 そうなるとたとえば音楽などの心浮きうき嬉し楽しき事へは、興味も感心も一切失せてしまいます。 音楽など戯れごとであって、どこかの子どもの女々しいお遊びでしかない。 大人になれば余裕も暇もないのが当たりまえだ。 腹の足しにもならぬ歌など聞く耳持っちゃいない。 ・・などと深刻顔のひとつもひねってしまうわけです。 衣食住足りて礼節を知る、ということわざがあります。 だがその喩えのように、当座の自分が家族が身内が、生きるに困らない安心が確保されてはじめて、他へ気持ちが向こうというものか。 そんなわけで、こどものころにあれほど胸深く響いたはずのメロディーにも耳を傾け心を開けないことにもなる。それが大人になったということだと錯覚する。 とはいえ、悲しみに打ちひしがれたどん底とも思える人生の窮地において、どこからともなく聞こえてきた曲の端にふと惹かれて立ちすくむ、という経験をなさった人もいる。 また、あの歌一曲でわたしは生まれ変わったのですとか勇気づけられたっけなぁという話もある。 親しい人との身を斬られるような死別に自殺を思いその淵に立ったが、地の底から湧き上がるようなあの曲に引き戻されたというのも読んだこともあります。 そういえば戦後の頽廃した世相の町なかに、「リンゴの歌」や「青い山脈」が流れたことで、当時のわが国の人々がどれだけ励まされたかしれないと聞きます。 こうなると、たかが流行り歌とか、音楽なんかアマちょろいとかたづけてしまうわけにはいかないわけです。 歌は世に連れ、世は歌に連れ、といいます。 その時代その社会の人々の思いや望みを映しだすのが流行り歌なのでしょう。 ある時代に生まれた誰かが、その時の思いを込めて創りだし、それを聴いた多くの人が共感して、口から耳へその先へと伝えられてひろがる。 ですから世のなかが変化していって、みなの思いが変わってしまえば、その歌もいつとはなしに忘れ去られる。 そしてまた後の世情を反映した歌が、ということでしょう。 そういう生まれ方をした歌なのであれば、やがて忘れ去られるはずなのに。 時が経ったにもかかわらずいつ聴いても心に浸みる歌、というものが誰しも一つくらいは思いあたるのではないでしょうか。 この一曲に思い浮かぶあの人、この歌にまつわる土地の思い出。 ほかにも、なぜかこの曲を耳にすると涙がながれるというのもありましょう。 なぜか、というのは今は亡き母の腕のなかや背中で聞いていたことによるのかもしれません。 また、もともとが日本というこの地に生まれ育ったことでもっている民族性というか共通の哀感のようなものでしょうか。 歌は時代を映すのはもちろんですが、その土地地方お国がらも色濃く含まれていると思うのです。 また民謡のなかには、生まれた土地を離れて人の移動で持ちだされ、遠地に渡って広まって、親しまれながら新しい土地の味付けや換え詞で生まれ変わった例もあるようです。 おなじく海外から持ちこまれて、日本の歌詞が付けられて愛唱されて、久しく異国の歌だとは知られずにあったという曲も以外におおい。 嬉しいにつけ悲しいにつけ、というとお酒をあげたくなりますが、歌もまた昔からそうした人生の道連れ喜怒哀楽の友として、欠かせないものではなかったかと思うわけです。 ところが、唇に歌をもてと昔教わったことがあったのにもかかわらず、ここ数年私だけかもしれませんが歌というものと疎遠になったなぁと実感しました。 そう気づいたのは、2007年の今年文化庁が国民から募って選んだという、「日本の歌百選」の発表曲名を目にしてのことでした。 それらは、懐かしい調べとでもいいましょうか、叙情歌集とでもいうのでしょうか。あがった101曲は明治、大正、昭和の時代の日本が生んだ歌の数々です。 文部省唱歌とか童謡、歌謡曲といろいろ並んだ曲目を見て、メロディーのいくつかをつい口ずさんだのでした。 そして思うのは、この列島という国土に、昔とはいえ同じように生きた日本人がこうした味わい深い歌しみじみとした曲を本当に愛したのだろうかということです。 それほどにどれもが心安らぐ歌であることに、あらためて喧騒不快な現代との隔たりを感じるのです。 もっとも、よく考えれば分かることですが、人間社会の騒々し醜悪ぶりというものは有史以来であって、なにも現代だけのものではないわけです。これらの歌もさして変わらぬ喧騒のちまたの花一輪だったのでしょう。 またこうした「日本の歌百選」が政府主導とはいうもののそれらの歌は昔に生みだされたものが大部分。歌そのものには偏った思いもまして政策など込められようはずもない。なにせ選び出したのは現代に生きる日本人です。 してみれば、今もこれら日本の詩情を忘れらずにいる人はおおく、これが日本人の心ですという思いを抱きつづけている方々がまだまだ居るというわけです。 そのことに共感して私もこれら日本の叙情曲がおさめられたCD何枚かを手にしたのでした。 それらを、ただ次々に聴き流すというのでは曲の心がもったいない。そう思い、どのCDにも取りあげられている曲名を見くらべた。・・と数曲が。 では、叙情歌集とはべつな海外演奏者もふくむCDから日本の曲をさがしてみる。・・と何枚か見つかった。 そこですべてで一番おおかった日本の曲はなにか、と見るとそれは「荒城の月」でした。 いわずと知れた土井晩翠作詞、滝廉太郎作曲の「春高楼の・・」のあれです。 私は人の声による音楽だけでなく演奏による日本の調べも好きですので、数名編成からフルオーケストラまで16の「荒城の月」を聴くことができた、というわけです。もちろん売り出されているこの曲はこの程度でなかろうこと、いうまでもありません。 さてこうして聴いてみると、内外あまたの名演奏者の個性をも越えて、日本の心とおおくが挙げたなかの代表曲である、月映え風そよぐ松の枝に古城の影、のこりし石垣に立ち見仰ぐと往時の栄華が偲ばれる、と歌う「荒城の月」。 その一部の隙もない詞と、清麗さとでもいうような夜の情景に身をおいたような雰囲気に、あらためて心酔し堪能できた60数分間。 あぁ日本人ってこのような凛とした清々しさが好きなんだなぁと共感しつつ、また自覚できたのでした。 春高楼の花の宴 巡る盃かげさして 千代の松が枝わけ出でし 昔の光いまいずこ 秋陣営の霜の色 鳴きゆく雁の数見せて 植うる剣に照りそいし 昔の光いまいずこ いま荒城の夜半の月 替らぬ光誰がためぞ 垣に残るはただ葛 松に歌うはただ嵐 天上影は替らねど 栄枯は移る世の姿 写さんとてか今もなお 嗚呼荒城の夜半の月 聴いた演奏者: ・鮫島有美子(ソプラノ) ・アイザック・スターン(ヴァイオリン)&山本邦山(尺八) ・リン・ハレル(チェロ) ・関屋晋指揮 晋友会合唱団(混声合唱) ・宗次郎(オカリナ) ・ボニー・ジャックス ・リチャード・クレーダーマン(ピアノ)&レーモン・ルフェーブル・オーケストラ ・三橋美智也(歌) ・ニュー・ストリングス・エマノン ・新垣勉(テノール) ・アンドレ・リュウ(ヴァイオリン&指揮)オーケストラ ・姜建華(二胡) ・カーメン・キャバレロ(ピアノ) ・イムジチ合奏団 ・クリーブランド管弦楽団シンフォニエッタ ・南安雄 指揮日本フィルハーモニー交響楽団 <<参考>> 親から子へ、子から孫へ/親子で歌いつごう日本の歌百選:http://www.uta100sen.jp/ 曲名 作詞 作曲 1 仰げば尊し 不詳 不詳 2 赤い靴 野口 雨情 本居 長世 3 赤とんぼ 三木 露風 山田 耕筰 4 朝はどこから 森 まさる 橋本 国彦 5 あの町この町 野口 雨情 中山 晋平 6 あめふり 北原 白秋 中山 晋平 7 雨降りお月さん 野口 雨情 中山 晋平 8 あめふりくまのこ 鶴見 正夫 湯山 昭 9 いい日旅立ち 谷村 新司 谷村 新司 10 いつでも夢を 佐伯 孝夫 吉田 正 11 犬のおまわりさん 佐藤 義美 大中 恩 12 上を向いて歩こう 永 六輔 中村 八大 13 海 林 柳波 井上武士 14 うれしいひなまつり サトウ ハチロー 河村 光陽 15 江戸子守唄 日本古謡 日本古謡 16 おうま 林 柳波 松島 彜 17 大きな栗の木の下で 不詳 イギリス民謡 18 大きな古時計 保富 庚午訳詞 WORK HENRY CLAY 19 おかあさん 田中 ナナ 中田 喜直 20 お正月 東 くめ 滝 廉太郎 21 おはなしゆびさん 香山 美子 湯山 昭 22 朧月夜 高野 辰之 岡野 貞一 23 思い出のアルバム 増子 とし 本多 鉄麿 24 おもちゃのチャチャチャ 野坂 昭如・吉岡治補作詞 越部 信義 25 かあさんの歌 窪田 聡 窪田 聡 26 風 西條八十訳詞 草川 信 27 肩たたき 西條 八十 中山 晋平 28 かもめの水兵さん 武内 俊子 河村 光陽 29 からたちの花 北原 白秋 山田 耕筰 30 川の流れのように 秋元 康 見岳 章 31 汽車 不詳 大和田 愛羅 32 汽車ポッポ 富原 薫 草川 信 33 今日の日はさようなら 金子 詔一 金子 詔一 34 靴が鳴る 清水 かつら 弘田 龍太郎 35 こいのぼり 近藤 宮子 不詳 36 高校三年生 丘 灯至夫 遠藤 実 37 荒城の月 土井 晩翠 滝 廉太郎 38 秋桜 さだ まさし さだ まさし 39 この道 北原 白秋 山田 耕筰 40 こんにちは赤ちゃん 永 六輔 中村 八大 41 さくら貝の歌 土屋 花情 八洲 秀章 42 さくらさくら 日本古謡 日本古謡 43 サッちゃん 阪田 寛夫 大中 恩 44 里の秋 斎藤 信夫 海沼 実 45 幸せなら手をたたこう 木村 利人訳詞 アメリカ民謡 46 叱られて 清水 かつら 弘田 龍太郎 47 四季の歌 荒木 とよひさ 荒木 とよひさ 48 時代 中島 みゆき 中島 みゆき 49 しゃぼん玉 野口 雨情 中山 晋平 50 ずいずいずっころばし わらべうた わらべうた 51 スキー 時雨 音羽 平井 康三郎 52 背くらべ 海野 厚 中山 晋平 53 世界に一つだけの花 槇原 敬之 槇原 敬之 54 ぞうさん まど みちお 團 伊玖磨 55 早春賦 吉丸 一昌 中田 章 56 たきび 巽 聖歌 渡辺 茂 57 ちいさい秋みつけた サトウ ハチロー 中田 喜直 58 茶摘み 不詳 不詳 59 チューリップ 近藤 宮子 井上 武士 60 月の沙漠 加藤 まさを 佐々木 すぐる 61 翼をください 山上 路夫 村井 邦彦 62 手のひらを太陽に やなせ たかし いずみ たく 63 通りゃんせ わらべうた わらべうた 64 どこかで春が 百田 宗治 草川 信 65 ドレミの歌 ペギー 葉山訳詞 RODGERS RICHARD 66 どんぐりころころ 青木 存義 梁田 貞 67 とんぼのめがね 額賀 誠志 平井 康三郎 68 ないしょ話 結城 よしを 山口 保治 69 涙そうそう 森山 良子 BEGIN 70 夏の思い出 江間 章子 中田 喜直 71 夏は来ぬ 佐々木 信綱 小山 作之助 72 七つの子 野口 雨情 本居 長世 73 花 喜納 昌吉 喜納 昌吉 74 花 武島 羽衣 滝 廉太郎 75 花の街 江間 章子 團 伊玖磨 76 埴生の宿 里見 義訳詞 BISHOP HENRY ROWLEY 77 浜千鳥 鹿島 鳴秋 弘田 龍太郎 78 浜辺の歌 林 古渓 成田 為三 79 春が来た 高野 辰之 岡野 貞一 80 春の小川 高野 辰之 岡野 貞一 81 ふじの山 巌谷 小波 不詳 82 冬景色 不詳 不詳 83 冬の星座 堀内 敬三訳詞 HAYS WILLIAM SHAKESPEARRE 84 故郷 高野 辰之 岡野 貞一 85 蛍の光 稲垣 千穎 スコットランド民謡 86 牧場の朝 不詳 船橋 榮吉 87 見上げてごらん夜の星を 永 六輔 いずみ たく 88 みかんの花咲く丘 加藤 省吾 海沼 実 89 虫のこえ 不詳 不詳 90 むすんでひらいて 不詳 ROUSSEU JEAN JAQUES 91 村祭 不詳 不詳 92 めだかの学校 茶木 滋 中田 喜直 93 もみじ 高野 辰之 岡野 貞一 94 椰子の実 島崎 藤村 大中 寅二 95 夕日 葛原 しげる 室崎 琴月 96 夕やけこやけ 中村 雨紅 草川 信 97 雪 不詳 不詳 98 揺籃のうた 北原 白秋 草川 信 99 旅愁 犬童 球渓訳詞 ORDWAY JP 100 リンゴの唄 サトウ ハチロー 万城目 正 101 われは海の子 宮原 晃一郎 不詳 |
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