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夢舟亭
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エッセイ  夢舟亭      2008年04月26日


   スポーツと政治


 亜米利加とあてた和漢の文字。
 これはアメリカという国名だ。さらに米国とまで約す。
 ほかに伊太利亜が、イタリア。
 仏蘭西はフランス。
 英吉利はイギリスで、露西亜がロシア。
 おなじくそれぞれ頭の一字でも通じる。伊国、仏国、英国、露国。

 国名だけでなく、なんでもかんでも自国語字で表せる。
 「輪が5つ」と書いて五輪。ごりんと読まずオリンピックとした。和語の極めつき。凄い。
 これこそ当てはめの字の傑作ではないか。
 オリンピック競技大会のシンボルマーク五大陸の輪の旗印を見て、この漢字表現に思い至った人は天才だ。

 そのオリンピック、世界スポーツの祭典は四年ごとで、今年中国の北京で行われる。
 これがどうも物議をかもしている。

 物議とは、主催国である中国(中華人民共和国)に属すというチベット民族が、自由を政治的にうばわれているとの声が噴出したらしい。
 それが欧米に広まり、オリンピックの開催そのものまで危ぶまれている。

 オリンピック開催地として世界の関心が集まるこの年の中国の弱みを突いて、統治される不自由から解放独立を勝ちとろうという思いを強めたのだろう。

 自由解放、の思いに賛同した欧米に支持応援の雰囲気も広まっているようだ。
 言動に過激さをくわえてはオリンピックの象徴であるギリシャからの太陽熱で得た炎、聖火のリレーの各国周回を阻害妨害もあるようなのだ。

 古代ギリシャで始まった競技会は、近代オリンピックとして19世紀末に仏国のクーベルタンが提唱した。
 世界のスポーツマンが一同に集う総合競技大会として最大のものだろう。
 参加することに意義を感じてほしいという提唱者のことばは、参加国を増やしてきた強い力になった。今にして平和の祈願の意味として深く迫る。
 世界各国の賛同があったからこそ今日に続いているのだろう。

 選手団が行進入場した開会のクライマックスと、競技が済んだ閉会式の終幕に奏されるオリンピック賛歌はじつに感動的だ。
 白地の大きなオリンピック五輪旗、その揚げ降ろしのときに。
 一瞬静粛なった会場に響きわたるオリンピック賛歌(サマラ作曲)。
 混声荘厳なる大コーラスが私は好きだ。

 各国の言葉に訳されて唱われるのだが、それはなんと東京オリンピックから正式になったという。
 東京オリンピックでの日本語歌詞:野村彰訳詞
  大空と大地に精気あふれて
  不滅の栄光に輝く
  高貴と真実と美をば造りし古代の神霊を崇めよ
  すべての競技にふるいたてよ
  みどりの枝の栄冠をめざしてここに闘う者に
  鉄のごとき力と新たなる精神とをあたえよ
  野山も海原もいまこそきらめく
  深紅と純白の神殿に
  世界の国民四方の国より聖なる園に集いきたるは
  古き者の永遠なる精神の御前にひれふすためぞ

 世界の国々でこの歌が響く日に向かって、心身を鍛えているスポーツマン。
 四年ごとの開催がどれほど待ち遠しかったことだろう。
 なにせ精神と体調は時期を逸するのがなにより怖い。
 人体は生ものなのだ。

 彼らにとってはもちろん、スポーツ愛好者の目にも、オリンピック競技大会を阻止しようとする行動はテロに見えるのが自然だろう。
 だからこそ、各国とも政府は、阻止に同調することはないのだと思う。
 こんな私でさえも、何種かの競技に興味と期待があるのだ。


 ところでテロというものは、米国でのあのビル破壊もそうだが、理由や被害の大小は別にして、人世のための行いや動きを邪魔しては間接的に当事国に打撃を与え、訴える行動なのだろう。
 だからその裏には言うに言えない思いがある。
 そこを分析してくみ取る国際機関の動きも重要だと思う。
 テロの裏には、果たせずに奥深く巣くって溜まった恨みや怨念の思いが鬱積しているのだろう。

 というならば、アフガニスタンやイラクへの米国の攻撃のように、いつでもその気になれば相手になれる、やっつけてしまえるという巨大な力の保持国には、テロする思いは理解できまい。
 やりたければその気になれば、いつでも出来るしねじ伏せ勝てるに決まっているのだから。
 テロとは、不意に背中から襲ったりしなければとてもやっつけられない力の大きな不均衡の、弱者が起こすものだと思う。

 たとえば三流水泳選手が、世界のトップスイマーを相手にして、まともには勝てないからと手足に傷害を負わせるようなものだろう。

 そういう意味では、第二次世界大戦開戦の日本の真珠湾攻撃も、テロに近いのかもしれない。
 正々堂々と宣戦を告げて、真正面から立ち向かうだけの自信はなかったのだろう。
 おのれの無力、敵国の強大さを知ったうえのことだ。
 こういうことを言うと自国をさげすむ自虐者かと言われそうだ。
 そう言われそうだから述べるわけではないが、歴史をふり返るまでもなく世界は強と弱の関係において、常に強は弱を従わせ貢がせてきた。
 それが植民地政策だ。

 だから欧米列強と言われた国々は皆それを行ってきた。
 アジア域国に日本が行ったのも、その時代までの先進国の資源確保などのための植民地政策に従ったに過ぎない。戦中まで国際法は植民地政策を罰することができたのだろうか。
 それを許せないとして、東京巣鴨で裁いた戦勝国の彼らこそはお手本だったのに。

 今でこそ、聖火リレーを妨害して自由支持の偽善者をよそおっている欧米の国々こそ、じつは強者であり、植民地政策も奴隷売買も真っ先に行ってきたのだった。
 そしてアジア各国は、植民地としての弱者の立場をいやというほど味わったのだった。

 香港などは、つい数年前にやっと英国から中国に返還されたばかりではないか。
 ベトナムへの仏国だって、インドへの英国だって、フィリピンやオキナワへの米国だって。そんなに昔のことではないのだ。
 なにせ世界大戦終結後にまで続いていたのだ。先の大戦の後も彼らは手放さないでいたではなかったか。

 つまるところ、過去の大戦は欧米彼らの領土争いではなかったのか・・。
 そういう世界の強国意識が終焉を迎えるころに。
 たまたまアジア大陸のはずれの列島ニホンが同じ価値観に突き進んだ。

 するとそれを目にした欧米植民地造りの諸先輩らは、アジア野郎ごときが真似とはコ憎らしいとばかりに叩きつぶしにまとまった連合国、欧米、ソ。
 欧米視点では、アジアは常に滑稽にして小人脇役にとどまっていて欲しい。
 という思いも少なくなかったろうこと。
 世の多くが欧米の理論体系を中心にして敷いているが、その根にはアジアへのかような思いがあろうことを私は疑わない。

 アジアには固有の特徴と歴史があるのだ。
 それが欧米から見ると異質なだけだ。
 欧米以外の文化はすべて低いなどということがあろうはずもないではないか。基準が異なるだけなのだ。

 今、アジアへの経済の流れが加速して、とくに中国の経済興隆のカーブがうなぎ登りだ。
 この勢いが彼らに目障りで見過ごせないということはないだろうか。

 巨体10億人を含む大陸、中国。
 チベットを含む共和国となれば、そちこちに不満は起きよう。
 いかに強硬な政治を敷いても、まとめきれないということもあろう。
 まして自由奔放な情報氾濫の時代となれば、無責任でお節介な外野の声もあろう。

 しかし常に大切なのは、それぞれにお家事情と経緯や歴史があるということだ。
 また完璧で非の打ち所のない国などは無い。

 より良くとばかりに叫ぶお節介がより悪化を生むことがあるのを、イラクは教えてくれた。
 そういうときに欺かれ振り回されて犠牲になるのは、純粋な人生観をもって精一杯生きている小市民ではないか。
 仕組みや政治枠組みよりも宗教よりも、平和な生活の保障がほしいのに、である。

 何に困って、何が耐えられないか。
 そのために譲れないことは何なのか・・。
 そこを整理すべきだと思う。

 小国一国が、すべてを自前で持つことになる自立独立。
 現代世界において、どれほど苦難を歩むことになるか。
 その国の皆が理解できているわけもなかろう。
 まして他国のすずめ達に分かるはずもない。

 扇動する者の唱える美麗で輝かしい自由のことばの裏には、宗派や党派や派閥とそれにぶら下がって生き延びようとする思惑がありはしないだろうか。
 小国の思いにつけ込み、自分都合に扇動してほくそ笑む過去にあった大国の思惑の爪が襲っていないだろうか。

 米国は戦後の日本復興の今を、成功した、と見ている。
 それへ多大な助力をしたことを世界に自慢しつつ、イラクにも同じ考えを敷けるとして企てたらしい。
 しかし多民族国家の複雑な思いや実情をほとんど理解できていなかったために、先が見えない。

 チベットだって、歴史も複雑な混合民族であり大陸にあって、周囲が異部族なのではないだろうか。独立後の混乱が見えやしないか。

 ニホンだって、戦後せっかくの日本の良さはぶち壊され、民族の誇りなどは頭からそぎ落とされた。という声もいまだにある。
 手足をもぎとられ、原爆の脅威におびえて。今も逆らえないニホン人は可哀想だ。と哀れみをもって見ている誇り高いターバンの人々も多いと聞く。
 一笑にふして過ぎるべきなのかどうか・・。

 何ごとも100点か、0点か、と明確にできるほど世の中はシンプルではない。
 一方が絶対正義で、他方が最悪だ、ということはありえない。

 だから、当事者両論を聴き、第三者の声を知ることは、何より大切なのではないだろうか。
 なにせ明日はわが身わが国のことになるかもしれないのだ。


参考: 植民地解放の歴史(ウィキペディア)




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