・・・・
夢舟亭
・・・・

<この文章は商業的な意図をもって書かれたものではありません>


文芸工房 夢舟亭  エッセイ   2006年03月25日


    スーザとアメリカ


 運動会は春か、秋。
 いずれにしても、スポーツに似合う季節の風は快い。

 今どきは小中学校の運動会は選手入場行進に生徒のブラスバンドが先導する。

 それも−−
  ヒュラララ〜、ヒュラララ〜、ララ。バンパパパ・・・
 ミッション・イン・ポッシブル(スパイ大作戦)のテーマ曲などを、実に軽快に吹いたりするのだからおそれいいる。

 吹奏楽曲といえば、私などの聴く定番はやはりスーザだろうか。

 昨今イメージ失墜の一途のアメリカ。
 けれどマーチ曲については、あの国が生んだジョン・フィリップ・スーザ先生なしには語れない。
 第二の米国歌といわれるほどの「星条旗よ永遠なれ」の作曲者である。

 スーザの曲の多くは、いかにも近代国家「ア・メ・リ・カ」を象徴する豪快にしてシャープなサウンドを感じる。
 それだけにスーザの曲をやらないブラスバンドなどあるのだろうかと思う。

 アメリカにスーザあり。
 それほどにこの二つの名詞はマーチなのである。
 鑑賞たりうる吹奏楽、マーチ曲はやっぱり、スーザ。


 スーザはたしか1854年アメリカの生まれ。
 父さんはポルトガル人で、母さんはどこになるのかバヴァリアの人とものの本には書いてある。
 10歳でヴァイオリンから始めた音楽の道は26歳で海軍軍楽隊長。
 以後亡くなる78歳まで吹奏楽の道を歩いたという。

 同じ時代を私のメモでみれば、音の大伽藍交響詩「シェラザード」を創ったリムスキー・コルサコフ。彼が1844年生まれ。
「蝶々夫人」のプッチーニが1858年の生まれ。
 大物チャイコフスキーが1840年で、マーラーが1860年。

 検索すればいくらでも見つかるが、そういった19世紀の絢爛豪華な音の遺宝が生み出された年代の、作曲家のひとりにスーザもいると気付く。

 言い方を代えると、「ツァラツーシュトラはかく語りき」で、2001年宇宙の旅テーマに使われた曲のあのリヒャルト・シュツラウスも、「月の光」ドビッシーも、大交響詩「大地の歌」マーラーもが。
 このアメリカのマーチ王スーザより後に生まれたということは、意外とといえば意外だ。

 そしてこんなことを思うのは私だけかもしれないが、スーザーがマーチ曲を生んだのは19世紀末なのに、そうではなく20世紀のど真ん中の強国アメリカのイメージに重なるのだ。
 今日の世界の正義ふうな唯我独尊っぽい国民気質を、比較的最近音にしたかの様な、そんな錯覚さえもってしまうのだ。

 それほどにスーザのブラスサウンドは眩しい輝きがある。
 ワシントン・ポスト、雷神、海を越える握手、美中の美、士官候補生、忠誠、エル・カピタン、そして星条旗よ・・と、曲名を聞いただけでもう血湧き胸躍る。

 七つの海をまたにかけ、いつも正しい保安官の金バッチを胸にした誇り高い英雄を象徴している様にさえ聞こえるではないか。

 私などは、あこがれのあの国は悪意のかけらなど露ほども無く、従ってさえいれば常に健全さを共有できるものと信じていた幼きころがあった。
 常に世界が、正義の味方と信じて助けを待っていると。

 それはあるいはこうしたマーチが醸し出すスマートさにも一因があるのではなかったか。
 つまりミリタリー(軍兵)の臭いも含むビバ・アメリカなテーマ音楽。
 などと言えば、あちらのスーザ先生はなんと思うだろう。

 軍楽隊に限らず、消防隊や警察の吹奏楽団もそうだが、プロフェッショナルな一団の揃いの服装は、実に決まってる。とにかくカッコイー! のだ。

 大小の太鼓やスーザホンが、ドドンドドン、パンパパパーン、ブカブカと刻むリズムを追って、ビュワーっとばかりにつんざくようなブラス群の鋭い響きがたまらない。
 聴くこちらの両足が、イチニイチニと、拍子をとり胸を反らして、着いてゆきたい衝動にかられる。

 マーチにのって行進するときというものは、つい心が弾む。
 意気揚々として、やるぞっという気持ちが噴き上がってくる。
 あれが闘志なのだろうか。

 クラシック曲に関しては輸入が多いアメリカ。
 ジャズ演奏にもよく取り上げられる「サマータイム」でおなじみの、ガーシュインの「ポギーとベス」や「パリのアメリカ人」などのほか、私はあまり知らない。
 2001年にバーバー作曲の、あの悲しみの曲を知ったにすぎない。

 そうしたなかにあって、19世紀末当時。世界のそうそうたる作曲家たちに負けず、充分に鑑賞に堪えるマーチ曲分野を確立して現在までほぼ首位独占というこの事実。

 その功績は、今アジアの武装薄き孤島ニホンの、空の下の運動会を盛り上げている。

 燦然として光り輝くアメリカが過去に生んだ、こんなにも素晴らしい世界の音楽となったスーザのマーチ。

 この後、同じ地球人を殺戮したり、疲れ果て傷だらけになって、あるいは死骸となった凱旋の兵士たちを送迎するためになどは、絶対に演奏してほしくないと思うのだ。

               2002/10/05







・・・・
夢舟亭
・・・・

・・・・
夢舟亭
・・・・




[ページ先頭へ]   [夢舟亭 メインページへ]