・・・・ 夢舟亭 ・・・・ |
<この文章は商業的な意図をもって書かれたものではありません> エッセイ 夢舟亭 2009年 2月 7日 トップ・オブ・ザ・ワールド アメリカのトップスイマー23歳マイケル・フェルプス選手が大麻!? アメリカの誇る水泳選手の好ましからぬニュース。 麻薬に関る記事といえば国内でも相撲をはじめゴルフやテニス選手のがある。 スポーツ界に麻薬は着いてまわるのか。 スポーツでは薬物使用による体力増強ドーピングがよく問題になる。 今回のフェルプス選手の使用目的はそれとは異なる。 精神面の癒し慰みの麻薬使用だ。不安や焦り、動揺を自力で解消しえない選手の現実逃避だろうか。 ドーピングは身体が、麻薬は心が、救いを求める。 末尾に経歴を載せたけれど最年少で彗星のごときチャンピオンになった。 とてつもない頂点に一気に立ってしまった。 向かうところ敵なしのヒーローになったのだ。 自ら望んで盛んに挑戦している間は向かい風に立ち向かう気力がみなぎっている。 そうした夢中のときを過ぎてふと目覚めれば。ますますの勝利の期待が高まる重圧プレッシャーは大変なもの。 背にうける期待の追い風を負荷と感じて空しさを感じたのかもしれない。 ここ10年の水泳選手といえばオーストラリアのイアン・ソープも思い出す。 15歳といえば日本では中学生。その年齢で世界大会へ出場。以後出場する大会泳ぐ競技のほとんどで優勝入賞を果たしたという。 こちらもまた彗星のように現れて一気に頂点へ達した。 飛び抜けた力泳と勝利の笑顔は鮮烈だった。 その彼が2006年に薬物疑惑が湧いた。こちらはドーピング。 まもなく泳ぐ意欲を失ったとして選手生活から退いた。82年生まれというから24歳。 彼らがただ者ではないのは分かる。期待に応えうるその資質は一目瞭然。 となれば関係者からいっそうの鍛錬を強いられる。報道で見た限りでは想像を絶するものだ。 なにせ近年は医科学的力学的な泳法も加わえられ強力なマシンに仕立て上げられる。 この広い世界だ、いつどんな強敵が現れるかわからない。 現にソープのあとにフェルプスが抜き手をきって現れたのだ。 明日にも無様に打ちのめされ大敗しないだろうかと、安眠を妨げる悪夢があるかもしれない。 若い体力の短い時期が旬だという競技の戦いは熾烈をきわめる。 熱い上昇志向をもって挑む競技において勝利は第一番の課題だ。 追いつき追い越す競技に必ず存在するのが勝と敗。 試合では力量技量の差が明確になり公然となる。 それを争うのがスポーツ。 であるからこそ観る側も楽しめる。 映画グラデエーダーの主人公のように命、選手生命をかけた闘いであれば観客も一段と沸騰する。 最上位に立ったら立ったでこの先何を目差すのか空を見仰ぎ、背後を思えば追いせまる不安は底知れない。 となれば初々しく「競技をやる喜び」などと言ってはいられない。 期待に応える、期待を裏切らない。 世界的人気が逃げ去るなどは、考えたくもない。 ここに職業選手の厳しさがある。 まして天才と唱われてみても十代や二十代初めというならひとりの若者なのだ。 飛び抜けている技を持つ者。それは言葉は悪いが真似のできない「軽業師」とか「曲芸師」と見えないこともない。 技術と心と身体を磨くのがスポーツというが、重圧でそのバランスが偏った人の心は歪むこともあろう。 葛藤のなかで素朴な初心など忘れ、はけ口や気持ちの揺れ紛らわしに薬物麻薬に手をだしてしまうことも。 世界の勝者の栄光とはそういうものなのだとすれば……。 後につづく選手たちはもちろんファンとしてもやるせないものを感じる。 世界一と称えられ手にしたメダルの輝きとその数ほどに、彼らの立場は快適なものではない、らしい。 ところで比較もなにもしようがない田舎のスイマーであるわたしだが。 毎回2kmをほぼ1時間。ゆっくり休まず気持ちよく泳げる。 そんな自分の境遇にただただ満足している。 この距離はわたしにとっては容易いものではないので、その時々の体調を読んでマイペースを維持しなければ完泳できない。 だから完泳し終えるとわが身体に感謝する。 してみればソープ選手やフェルプス選手よりもスイミングを楽しんでいるとは言えないだろうか。 ……と問いつつも、そう言い切ってよいかとわが内心を探る。 マイペース遊泳だ競争はしないというわたしだが、気分転換のストレス解消なのと遊び気分で楽しく通う人たちの泳ぎを見ては、プライドを撫でまわしていたりする。 あれほどひどくないな、とほくそ笑んでいるようなのだ。 わずか500mさえ泳げない人が少なくないことを、素知らぬ顔で見てはその隣を優越感を隠して往復していることを否定しがたい。 だからたとえば、昨日まで「ご熱心ですね」「羨ましいわ」とプールサイドでささやく人たち皆が、ある日を境にノンストップで10kmもの距離を当然顔で泳ぎだしたらどうだろう。 悔しさの気持ちを隠せるだろうかと思う。 今のようなマイペースで「なぁに大したことはありません」と微笑むわけにはゆかない。 そればかりか自己嫌悪におちいっては憂さを晴らそうと、アルコールに頼るかもしれない。場合によってはプールへ出向かなくなることだって……ないとは言えない。 つまり健康管理のための泳ぎのわたしごときも、スピードこそ競わないもののじつは距離において優位を意識しつつ、井戸の中で密かに上位の座を守っている気持ちがある。 ことほど左様に優越感という麻薬的快感を、スポーツの楽しみとしていやスポーツにかぎらず、無意識に舐めていると気付くのであります。 −*− 参考:『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋−− 『イアン・ジェイムズ・ソープ(Ian James Thorpe、1982年生) オーストラリア・シドニー生まれの元男性競泳選手 400メートル自由形の世界記録保持者。 オリンピック金メダル5個獲得。 15歳でオーストラリア水泳男子代表で98年のパース大会400メートル金メダル。(自由形水泳男子金は最年少記録) 2001年世界水泳で6つの金メダル獲得。 通算11の世界水泳で金メダル獲得。 2004年アテネで自由形200mと400mの金メダルと100mの銅メダルを獲得。 オリンピック100-200-400の組合せでメダルを獲得した。(これは唯一ソープのみ) 2006年11月21日禁止薬物疑惑や意欲減退を理由に現役引退表明。』 * 『マイケル・フレッド・フェルプス 1985年アメリカ、メリーランド州生まれ育ち。 父親はメリーランド州の警察官。母親は中学校の校長。姉二人。 少年時代に注意欠陥・多動性障害の診断をうける。 7歳で水泳を始め、10歳で同世代全米大会新記録。 2004年酒気帯び運転で逮捕。事件を「家族とアメリカ国民を落胆させてしまった」と反省。 2009年2月現在、200m自由形、200mバタフライ、200m、400m個人メドレーの世界記録保持。 イアン・ソープ(オーストラリア)を抜き世界の頂点に昇った。 通算オリンピックメダル16個を獲得。金メダル総獲得数14個は歴代1位。 オリンピック1大会で金メダル8個は史上初。 世界水泳で通算20個メダル。17個が金メダル。 オリンピック以外の国際大会記録は、2003年、2004年、2006年、2007年度の世界競泳選手オブザイヤー(Swimming World Swimmers of the Year)。 2001年、2002年、2003年、2004年、2006年、2007年度のアメリカ競泳選手オブザイヤー(American Swimmer of the Year)に選ばれた。 オリンピックを含め国際大会で通算48個メダル獲得。 2009年2月1日英紙ニュース・オブ・ザ・ワールドがガラス製吸引器具で大麻吸引の写真掲載。本人が事実と認め謝罪した。 』 |
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