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夢舟亭
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エッセイ   2005年10月12日

    野鳥とのこと



 幾度となく試みては無視され続けた野鳥への餌付けが、不意に旨く行った数年前の話です。

 花畑、と言ってもごく小さな庭の中ほどに。
 先端を輪切りにした太さ数センチの杭を、一本打ち立てて。
 四角な一枚。端し切れの板を水平に釘でとめただけの、ごく簡単な野鳥の餌場です。
 それは、どこか海上の石油掘削現場に造られたヘリポートにも似ている。
 地上の道を踏まず歩まずに、上空から飛来して訪れる小鳥のためだから。
 まあ似ていてもおかしくはないのだが。

 過去に失敗したのは、お米をそのまま撒いた。
 野鳥たちにはまったく見向きもされず。
 そのときお手製餌場の木板は、そのまま風雨と陽射しによって、無惨にも変色して、へたって朽ち果てた。
 みっともないので、もう取りはずそうかと思ったのでした。

 春先に。例年ならまだ残っているはずの南天の赤い実が、その年は年明け早々ついばまれ尽くされて。
 もう一粒も残ってない庭先で、もの欲しそうにさえずる雀を見て。
 可哀想にと、使われずのぼろのヘリポートに、米粒でなく、たまたま炊いたごはんの残り粒をゆがいで撒き散らした。
 それが、良かった。
 来たきた、小鳥。
 餌付け、事の始まりです。

 当初、期待を裏切られたとき。
 散々家人の笑いの種になった自慢のヘリポート。
 見るのも辛かったほど。
 だからこの餌付け再々トライのごはん撒きとて、踏み出す足は重かった。
 世界平和のためにと早合点して出向いたどこかの派兵論争のなかの軍隊の様に、ちょっと踏み出すには覚悟が要りました。

 それが、おじいさん待ってましたワ、と。
 舌など切られるはずもない雀たちが、踊るように飛来して、群れては餌場の板をこつこつちゅっちゅとついばんでいる。

 ふーう。とにもかくにも、野鳥餌付けは大成功。
 小鳥だってちゃーんと心は通じるんだよねぇ。

 町はずれの、ごく狭いわが家で過去数年前に。
 失笑失墜した私のメンツと、立場と、権威と、評判、威信、信頼・・とかなんとか。もろもろをこの一事をもって回復したのであります。えっへん!

 ラッキーチャンス、ハッピーディー幸などはどこから飛んでくるか分かないものです。
 どちら様も、けっして諦めるということのないように。
 愛は地球を救うとか申されたのは・・孔子か孟子か荘子だったか、老子かな。
 いや、たしか電子、の申し子テレビだったな。

 ほんの一つまみの残りごはんが、こんなに楽しい思いに膨らむとは。
 そう思うと、つい摘むごはんの量が増える。

  おじいさんいい加減になさいませ。
  なにをいうのかおばあさん。これしきで貧するわけもし。

 とかなんとか。ガラス窓に屈んで、身を隠し。
 来たの来ないの。あれは何の鳥だ。などと目を細める二人。

  ふふふ。ほらほら、また来てますよ。
  あら、あれはまた珍しい鳥ですね。

 未確認の飛行物体、UFO。
 といっても、ツインのレディがピンクのミニスカートで歌い踊る話ではなく。
 ましてやダイヤの小つぶを空にまき散らしたような、夜星の彼方からのヴィジターでもない。
 だれも確認などすることもない飛行生物。ごくフツウの野鳥たち。
 ですが思えば自分のからだひとつで飛ぶということは、見ているととってもファンタスティックなのです。

 魔法のようにも見えてくる。
 だって怪音も轟音も出さないで、排出物は・・ほんのちょっと。
 大気が汚れるほどは無いから、環境問題で大もめする人間の世界会議へ出席したり責任追及されることもない翼ある彼ら。
 毛羽根をゆらし宙に舞い。飛んで行き来する様子。
 そこにはとても夢誘う情景があるように思えてならないのです。

 言うまでもないことですが、鳥は空中を自由に飛び回るのです。
 難なく中空に浮いて、行き交う小鳥たち。
 彼らには何でもないそのこと。
 なのに、もしこの私がぱたぱたと飛んだりしたら・・世の中はひっくり返るほどの話題になる。

 たとえば・・、真っ直ぐに立って、両腕を左右にひろげて。
 ゆっくりと両手を上げて、手指を広げ。
 それを思いっきり振り下ろし、空に向かって背伸びをする。
 と、ふわ〜り……。
 今のいままで地べたに立って、この身体を支えていた足のどちらもが、ふいっと地面から離れる。

 鳥にはなーんでもないその動作。
 私のこの身体が宙に浮いているとしたら、なんと素敵なことか。
 それがヒト科の私たちに出来たなら、魔法です。
 有史以来、数十億人までになった人間で、未だだーれも出来ていない翼での飛行。

 でも・・次のミレニアム、西暦3000年の頃には。
 地上一面が、自然原野そのままの姿に戻っていて。
 地面はコンクリートの道も橋も建築物も無し。
 税金予算余りの通行止め工事も、ガソリン税の奪い合いなど無い地上を、下に見て。
 翼を背に生やした鳥か人か、鳥人たちが悠々と風にのって行き交っているかもしれませんぞ。

 バイオテクノロジーと地球環境危機回避策が合体して。
 人類の幸せ追求のエネルギーの大転換の時代です。

 生体のほうを、地球環境、大自然のあるがままに合わせ込んでしまう。
 未来永劫、続く人類の望ましい姿という世界賢人のアイデアが実現するかもしれない。 いかがでしょう、人間が鳥になる時代です。
 もちろん機械や道具を使うのでなく自分の身体の一部として翼をもってです。

 もう天然資源枯渇の心配は無し。
 地上すべてが、自然公園の大パノラマであり、食料源の畑。
 うっそうと茂る森林が延々と続く。
 海原が広がろうが、山がそびえていようが、深い谷大河を越えてゆくも、一切の人工マシンやエネルギーパワーも要らない鳥人の生活。

 皆が自力で、ふんわりすいすい。
 どこまでもどこまでも飛んで行ける未来社会は、時代遅れの地べたを這うクルマも、騒音の飛行機も無し。
 いやそんなものは元々不要だったのです。
 未来で鳥人たちはどんな日々を送るのだろう。
 例えばその頃の恋は・・

 と、残りのご飯のチケットか野鳥のプレゼントか。
 ファンタスティックな幻想に、ひととき浸ることが出来たのでした。





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