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夢舟亭/浮想記(随想)
 



 小説『日蝕えつきる』
                         2018年 06月24日


 『日蝕えつきる』という題は、ひはえつきる、と読む。
 花村萬月作の小説である。

 花村氏といえば、芥川賞作家。

 文学雑誌(文學界)に1998年発表した”ゲルマニュームの夜”が同年の芥川賞。

 雑誌棚の奥から探し出してみれば・・・挿絵と今回の作品の表紙に、なぜか似た雰囲気があるのが面白い。

 たしかにこの作家の作品は、生々しさ、という点では変わっていなかった。その作風は健在というべきか。

 痛々しいまでのリアルな描写があり、ときに吐き気さえ感じる。この作家らしい、まさに真骨頂だ。

 さて、今回の『日蝕えつきる』だが、短編集ともいえる五作品。

 とはいえ、そのどれもが、天明六年の正月元旦に逝くことになった江戸庶民男や女の、同日最期までを描いてある。

 庶民、とはいえ、いうなれば”下層”ということになろうか。貧しさ生活苦がうかがえる。

 いや、生活苦、という以上に、生い立ちこそ貧しいというべきか。

 とはいえ、あの当時の一般市民を想像すれば、特殊特例の範疇というほどのものではないのかもしれない。

 なにせここでいう”天明”の頃、1780年代は、飢饉つづきだったようなのだ。

 加えて、浅間山の噴火、もあった。

 そして、当作品の題名の「日蝕」、つまり「天明の皆既日食」が、天明6年の元旦に。

 そうした天変地異が重なり、いっそう当時の人々の不安感を煽ったことだろう。

 まして非科学的なものの見方考え方も多々あったろう世相、その渦中に生きた片隅の人たちの、生き様を描いた作品ということになる。

 その”生き様”は当人が選んだものなどでなく、生い立ちもふくめた定めか。
 選択の余地もなく、寂しく空しくそして切なく、逝くことになる。

 そこまで描くか、という点が少なくなが、しかしそのハンパではない不快感は作品の不出来などというものではなく。

 その程度に勘違いされる作家の作品ではもともとない。

 それだけに、読むに覚悟が要るかもしれないが、印象深く残る作品ということだ。


                <了>

   

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