・・・・ 夢舟亭 ・・・・ |
夢舟亭/浮想記(随想) 「日の名残り」読んで 観て 2017年 10月29日 ご存じカズオイシグロ氏の英文で書かれた小説の日本語訳。 5才ほどで英国に渡った両親とともにそのまま住み着き国籍もあちらとか。 そしてなにより、英国最高の文学賞(ブッカー賞)を受け、さらに今回のノーベル文学賞受賞。 ノーベル文学賞は作品にというよりもその人の文学姿勢そのものに与えられるようで、どの作品にというのではないようだ。 そしてなによりこの人の作品は10冊に満たないというのだから驚く。 そんな中の作品を「夜想曲集」「忘れられた巨人」を授賞発表の前に、「わたしを離さないで」そして「日の名残り」を後に、読み、そして映画化された作品も観た。 ここでまず思うのは、どの作品どうしが、題材においてかなり異なる世界だということ。 よくもまぁこれほど異次元な世界をテーマとして選べたものだと思うのだ。 とはいえ、空想世界を描いていても人間の内面、精神の活動、それは「思い」「感じ」「考え」をしっかりと捉えていることに感心してしまう。 とくに述べた後の2作品は、主人公が過去を振り返り辿る丁寧な表現が、読む者の心を捉え続ける。 もっとも、この2作品もまた、主人公の年齢はかなり離れているので、わたしなどは興味のもちかたが異なる。 そこでここでは、日の名残り。 英国、大英帝国の末期とでもいうべきか、振り返れば最後の大戦の前後の、英国貴族の大館にかしずく”執事”が、その輝かしい思い出語りのかたちをとって描かれている。 雇い主であるご主人を”卿”として、召し抱えられた30名もの人々の日々の仕事や、主や賓客、そして仲間との人間関係などの様子。 ご主人の日々に、少しの粗相失礼無く仕えるべき”執事”こそは、”召使いや下僕”などではなく、常に「品格を磨くべし」をプライドとし、あまた召使いや下僕たちを従え指導指揮し、大舘の運営責任を担っている。 そのプライドこそがおのれの人生に与えられた義務であり、生き甲斐となっている。 その堅固な意思、いや私欲も私生活も排した信念こそが、ときにはおのれの人生に・・・後悔の念も湧くことになるのだが。 それこそが、大英帝国の、貴族社会の、そして執事としての自分の、過去を振り返るテーマにもなる。陽が沈む風景は美しい、過ぎた”日の名残り”惜しや・・・。 映画のほうだが、英国の名優アンソニー・ホプキンス、そして名女優エマ・トンプソン、米アカデミー賞で主演男優賞、主演女優賞にノミネート。 さすがに名著だけにほぼそのまま映像化されている。 それにしてもはるかアジアを生地にした作家が、英国の栄光とその後をかくも見事に、大人げな地味さで描いたものだと感じ入りました。 そして、それをそのまま、かの栄光のお国の、最高の映画陣をもって映画化されたと、感服いたした次第でございますが、さてこの片田舎の爺ごときの深い感動を、どれほどご理解いただけますことか、は、少々不安が湧くのではございます。 しかしながら、余白少なきこの場となれば、この辺でおいとまいたしたく思うのが、思慮ある者としての心得かと思う次第でございます。 <了> |
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