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夢舟亭
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夢舟亭/浮想記(随想)

    

  願いの車(ラストドライブ)/BS放映より
                       2017年 09月23日
  

 もしも、わが身が不治の病に冒され、余命いくばくも無い、と知ったなら・・・。
 
 そのとき、自分は最後の旅を許されるとしたら、どこへ行きたいですか。
 
 NHK-BSのドキュメンタリー番組の「願いの車/ラストドライブ」は、その思いを実現させる様子をドイツに取材したものでした。
 
 なぜドイツへ?
 
 それは、”ラストドライブ”を叶えるボランティア組織があるから。
 
 専用の車をもち、医療関係や運転の専門職現役から退いた方々がメンバースタッフとなり、ホスピスでけして長くない余命を送る人を、おそらくは最後となろうであろうベッドの旅の、”願いの車”を走らす。
 
 その前後の様子をカメラは追う。
 
 見ていて、そこに交わされる会話を聞いては、自分ならどこだろうかと思う。
 
 若かりし恋の思い出の地もあろうし、血気盛んなころ過ごした地もあろう。
 
 貧しかったころの家族との思い出の町だろうか、または傷心の独り旅の山荘だろうか・・・と。
 
 行く先々の人たちは、スタッフの真摯な動きを見つけると、願いの車、であることを知り心打たれつつ、病の本人へ何がしかの言葉や心遣いをするのには驚く。
 
 あるアジア系のレストラン女性経営者はその来店の一行に特別のサービスメニューを添える。
 そして取材のマイクに、素晴らしいことです、けれどアジアではなかなか実現できないでしょうね。人々が多過ぎてこれほどの他人への思いやりをかける余裕はないだろうから、とつぶやいたのが心に残ったのでした。
 
 死がそこまで迫っているのを知る本人たちの言動はさまざまで、剣呑な物言いの人もあり、その地への車の中でのスタッフとの会話により、少しずつ心ほぐれてゆく。
 
 また別の病の人は、まだ若いにもかかわらず不幸な目の前の事実に、離れない恋人に婚約はせず、ラストとなるドライブを共にする。
 
 どちらも感激の旅の後逝ったという。
 
 
 今、世界は、住む地を失い焼き出され追い出され、国をかけ国民を背負いながらの悪罵の応酬や、天変地異の地震やハリケーンなどの、不安な雰囲気がただよっておりこの身を守るだけでも大変だと感じているけれど。
 
 そうした同じこの星の上で、こうしたゼニ・カネ損得の価値とは異なる他人への心遣いのやり取りが交わされている、という人間の不思議、闇の光を視た思いでした。
 
            <了>

  −*−

   
 NHK BS1スペシャル「ラスト ドライブ」

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