・・・・
夢舟亭
・・・・

夢舟亭 創文館(随想・エッセイ)
 



『JR上野駅公園口』を読んで
                  2020年11月24日


小説『JR上野駅公園口』(柳美里)は以前に一度読んでいた。

あの311(東日本大震災)後だったのだが、当県人としては地震よりも東京電力第一原発の連続爆発事故のほうに関心の中心にあったので、さらっと読み終えてしまっていた。

当県、とあえてここにことわるのは、この『JR上野駅公園口』という小説が、福島県の南相馬市生まれ育ちの、一人の男性のホームレス生活への半生が描かれているからだ。

だから、てっきり”その件”、つまり”原発の連続爆発事故”に由来するストーリーと勝手に思い込んで手にし読んだのだった。

けれど、そうではなかった。
つまり原発の連続爆発事故が、主人公の生涯を決定づけたのではない話、ということ。

そのために、わが県はじめ地方にはよく聞かれる話だという思いもあり、ああそういうことね、と読み終えていたのだった。

作者の弁によれば、出筆の10年以上も前に構想していたとか。

ま、それほどに、当県人としては原発の連続爆発事故がこの世の悪の根源というほどに怒りの中心の10年間というわけだが・・・。

さてそれはともかく、ではなんで今、再読したのか。

作者柳美里氏が現在この福島県は南相馬市在住であり、全米図書賞受賞を受賞したと先日報道されたから。
賞はこの『JR上野駅公園口』という作品に与えられた、という。

国内では、在日韓国人というとあまり評価されないのか、未だにこのニュースは大きく取り上げられないようだ。

これがたとえば、例年ノーベル文学賞を逸している日本人作家M氏の場合などは、毎年話題になっているが。

とはいえ、柳美里氏は日本の芥川賞を『家族シネマ』(1997年)第116回受賞。いわゆる純文学の人なのだ。

で、この作品『JR上野駅公園口』だが、昨今の貧者を描いている映画、たとえば『万引き家族』(日本)、『パラサイト/半地下の家族』(韓国)が話題になっているが、しいていえばこの類がテーマと言えそう。

しかしほとんど当作品にユーモア感はない。
そこが純文学か。

出稼ぎにより家族と離れた生活がほとんどで、年に何度も帰郷しないまま、家族を一人ひとり失って。
けっきょくはホームレス生活?となってしまう主人公。

彼のふる里とこそ、福島県南相馬市(以前は原町市といった)なのだが、作者によるとこの地の出のホームレスの人から多くの情報を得たようだ。
そのことが現在の作者を南相馬市に引き寄せることになったのか。

そんなわけで福島県人としては、また過去の東北人としても、出稼ぎという生活苦のテーマはうなずけるものを感じるのでした。


あれ(311東日本大震災と原発事故)から十年。
さすがに”一昔”といわれる時間の経過のなかで、この小説の再読には、感じるものが多かった。けれど・・・

その再読のきっかけが、アメリカでの評価によるということにより、今では地元作家となった人の作品を再度読むことの、どこか後ろめたさがあることは否めず。

日頃本を離さないはずが、ものの見えていない自分と恥じたしだいであります。

せめてしっかりと目が見える映画監督の関心をこの作品が惹けたなら、良いなと祈るのでした。



・・・・
夢舟亭
・・・・

・・・・
夢舟亭
・・・・

・・・・
夢舟亭
・・・・

・・・・
夢舟亭
・・・・
[ページ先頭へ]    夢舟亭HOME    「創文館」    「随想」目次