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夢舟亭
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夢舟亭 創文館(随想・エッセイ)
 



   映画『ファーザー』を観る
               2021年11月10日


 ファーザー、ここでは老父のこと。

 人は皆、生きているかぎり老いる。
 光り輝くほどまぶしかったあのスターあの歌手、皆老いた。痛ましいほどに。

 老いてなお若くキレイなどと世辞を交わしても、しょせんは・・・だ。
 歯に衣を着せないストレートな物言いをしなくとも、けして身体の衰えを隠しようがないことを否定できない。誠に残念ではあるが。

 身体の衰えを日々の運動などでとはいうが、年齢差を越えるのが関の山で。
 自己比較で見ればしっかり老いの影が漂い、隠せはしない。

 しかし身体の老いならば仕方なしと、一応の納得や諦めもできよう。
 だけれど、これが精神の混乱や記憶の曖昧さ、その兆しを感じたら・・・。
 このときだけはかなりのショックを受け、また傍目にこそ隠せない。

 それも初期のこと。
 日増しに”兆し”ではなく、”日常”となれば。いわゆる”痴呆”となればだ。 

 自覚というものその困惑ぶりは、かなり種々多様らしい。

 これまで歩んできた個々の人生によって、性格のちがいによって、その兆しの自覚と、それへの反応行動や受け止めがたいために発する言動は・・・。

 それにもまして、見守り介護役となる家族の思い、その苦労やこの先への不安の複雑さもまた・・・だろう。

 当作品はこのテーマを真正面から描いている。

 けして茶化したり笑いを誘ったり、綺麗事にしたりはしない。
 リアルであるぶん、深い。そこが演者の才能の証でもあろうか。

 老父の混乱する意識の目線で描かれており、正常目線の観客に混乱を与える手法が特徴。

 おそらくボケるということはそういう状況なのだろう、と。

 主役のアンソニー・ホプキンスは、この作品で米アカデミー主演男優賞を得た。
 あまりに普通の老人すぎて、これまでの他の出演、『羊たちの沈黙』(1991年)、『ハワーズ・エンド』(1992年)、『日の名残り』(1993年)などで見慣れた様子とはまた異なるので、観る側が混乱するほど興味深い。

 いずれにせよアカデミー賞云々はおいておいても、この作品が描き表現するものは万国共通、かつ永遠のテーマであることはたしかだ。

 わたしも、あなたも、皆が老いる。そして、その時が来るのだから。





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