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夢舟亭
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夢舟亭 創文館(随想・エッセイ)
 

   『重要証人/ウィグルの強制収容所を逃れて
         (サイラグル・サウトバイ)』を読む
                     2022年 06月 05日


 ロシアが行っているウクライナへの一方急襲が世界のニュースの今。つい忘れがちなもう一方の中国の脅威。
 それは台湾へ。そしてここに語られるウイグル族への強制収容の件。

 読めば、他周辺国をも脅かす勢いのようだ。
 いつの頃から、どのような考えの元に、自国土を拡大し自国民化するに至るものなのか。

 思えば先の大戦、戦前戦中戦後のわが国もまた、周辺諸国へ出兵しては「満蒙開拓」などと唱え一般国民までが出向き住み着き、住民らへ強制自国化推進した経緯がある。

 それは敗戦により「石もて追い返され」、逃げ惑い家族離散の憂き目に遭ったのは周知のあの「引揚者」たちだった。
 当時の狂信的な軍民一体の盲信猪突さは、今自国民を思うに、信じがたい。

 ヒトの意識というものはかように、軍官民皆一致し「お国のため」などと勢い付けば、左様なほど邪鬼悪鬼となり、相手側の思いには盲目となるようだ。

 で、この本の筆者は相手側。つまり被害側。
 自然豊かな新疆ウィグル地で遊牧生活から定住。
 思考的にしっかした家族縁者のもとに生まれた女性は、教育を得て成長し家庭を築き、夫と子供二人。

 そうした平和を、脅かし始めた隣の大きな民族、中華人民共和国。
 それらが一方的に進出して土地を取り上げ、勝手に開発。
 逆らえば収監され、いつの間に出来たか増えたかの収容所送り。

 著者も、何が災いしたか罰則を課され、収容所に送り込まれ中国語教師の役を強要される。
 そこへの道行は、黒袋を被せられた後部座席で左右が兵士。
 そして終わりの見えない中国人化矯正の収容生活が続く。

 日夜大勢のウィグル人同胞の苦痛や悲鳴を見聞き続ける。
 ウイグル人であり、幾多の苦悩苦痛を死ぬ思いで越え、カザフスタン、そしてドイツへと脱出。

 表題のごとく、中国がウィグルの人たちに課する中国人化のための収容所の存在と、加えられる責め苦の実態の、重要証人となったという。
 このためにはウィグルに残る家族との連絡は絶え、状況は未だに分からないという。

 読むほどに、民族意識とか国家への忠誠心などが他国に向かい、自国優位の思いが強まり、軍政などが煽るときに沸き上がる狂気というものは、凄まじいことをやってしまうと感じる。

 思えば、現在進行形の事実世界の報道記事にあるごとく、「21世紀」今この時も、正義の旗を振るい、平和を望む他者他国民の命を危うくし、また平然と息の根を血流を断つのに疑問を感じない軍兵を生み、動かしうる政治が存在するのだ。

 そういう強大な勢力を相手に自念を維持し生命をかけて貫き、逃げ切った筆者には驚き頭が下がる。
 貴重な一冊だ。









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