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夢舟亭 創文館(随想・エッセイ)
 



   『むらさきのスカートの女』を読む

                       2019年09月12日

芥川賞受賞作品(今村夏子)、『むらさきのスカートの女』を読みました。

紫、ではなく、”むらさき”という題名がそのまま本文の雰囲気として伝わる、ふわーっとした感じの女性。

それをつかず離れず見つめ追い続ける女性もまた。

どちらも地に2本の足をつけて動いているように思えない、感じ。

それは、何を目的に生き、どういう生い立ちをもっているのか。家族関係はどうなっているのか、などの、いわゆる常道的小説に慣れているこちらには、掴みどころのない人物像。

しかしそれが、現ニッポン社会の今どきの非正規薄給の職場環境が背景にあり、その中で生きる二人と、その職場仲間を描いているのを思えば。

すでに読むこちらが”未経験ゾーン”での生活なのかもしれない。

そうして近年の小説とくに純文学でのテーマとしては、これが通常なのかもと近年の小説を振り返る。並な言い方をすれば、これが今時代なのかな、と。

そしてまた、そういう世界での生き様には”ひもじい”の情景が目立つ気がするのです。
一方に、銭があふれていて数えたこともない人種もあるのは、当然なのだろうけれど、そういう人物はこの小説にはいない。

で、ここに登場する”むらさきのスカートの女”はといえば、ボロなアパート生活で就活中。
多分作者ほどのおばさん手前の世代か。そうとう苦戦している様子。

で、そうした行動を隠しカメラのように追いながら描写するのがもう一人、”黄色の・・の女”の目線。公私の別ない四六時中を追う。

この二人の関係は同一人物なのかもしれない、と想像を膨らませるのもこのての考えこまれた小説を読む面白さかも・・・。

単調な流れのなかで、わずかな起伏の先にある終末は、やはりわたしには賢い作家の考えこまれたものにはついてゆけないなぁと、想像を超えた。

いかにも1980年代以後生まれ育った方々の創作、を人生観までがひっくり返ってしまった時代感を含め、楽しんだ。




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