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夢舟亭
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夢舟亭 創文館(随想・エッセイ)
 



   「ニムロッド」を読む
                 2019年03月30日


 第160回芥川賞作品、『ニムロッド』(上田岳弘)を読んだ。

 30歳代後半か、ネット関連職。
 今どきウェブ社会を提供するがわの一人の青年。
 主人公はそうした独身男性。

 小規模サーバー管理会社勤め。
 とはいえ国内に支社がある程度。

 彼は、若い社長から仮想通貨の企画を起こせと指示を受ける。
 指示言葉は「金を掘れ」。

 ネット上で、無から有を得る新事業。その「金採掘」の企画を一任された。
 新たな”採掘課”を与えられ。しかし部下ゼロ、で始動。

 メールサービス、パーフォマンス、CPU、サイト、サーバールーム、データーセンター、ビットコインなどなど・・・。
 その筋その業者コトバが出てくる小説は、今ではさほど珍しくもないのではある。

 が、当作品がわが国小説、純文学界の頂点新人賞に値するとの称号を得たことを思えば、しかしまた小説が時代を映すとの意味を思えば、さもあらんかな・・・。

 読むこちら側こそ、時代の潮流というものに眼を開けなおすことを強いられる気がする。
 そうしたIT時代の職場の主人公の心情を描写するこの作品。

 とはいえ、では、と身構えるこちらの想像に反して、成功者のそれとは遠い話となっている。

 さらには、業務のせいで精神的ダメージを背負う支社の友人との、メールやり取りまでがある。
 その「駄目な飛行機好き」の相手のメール名が本作の題名。

 この二人の間に”かの女”をおき、話は進む。
 とはいえ、三者のやり取り、意識などは読むわが老脳の解しうるものとはなりえないまま。

 なにせ今どきの彼らは仕事中業務時間にメールを私的に交わす。
 そんな時代なのさと笑われるのはこちらのようなのだから。

 で、肝心の、ネット鉱山の金採掘事業、の企画だが、その試行として既存の”ビットコイン”における結果をみれば・・・はかばかしくなく。
 そんなものをただ模倣した企画事業があたろうはずもないわけで、苦慮苦悩の日々が続く。

 そこに一見新鮮なIT界に感じつつも、時代変わらぬサラリーマン社会的、中間以下の層の若者像が浮かぶように読めた。


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